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忘れられない2

 元旦に実家に顔を出し、翌日は千景の実家へと行った。そして3日は家でのんびりとした。三が日でのんびりできるのは今までにはなかったことだ。結婚する前は三が日は親戚がくるのもあり、それで三が日は潰れていた。でも結婚して家を出たことで面倒な親戚を相手にしなくて良くなったことにホッとした。  そんな感じだったから和真とは三が日は会えなかったんだ。  和真……。  1月4日。今日は和真の命日だ。今でもあの日のことは夢に見ることがあるくらいだ。血を流して冷たくなった和真。数日ぶりのデートの日だったのに。  命日の今日、俺は花を買ってきて自室に飾ってある和真の写真の横に生けた。墓を知っていたら墓参りをしたかったけれど、さすがに墓の場所を訊くのは不自然なので、俺は和真の墓の場所を知らない。  和真を失って1年。その間に俺は子供の頃から許嫁だった千景と結婚した。和真が生きていたらどうしただろうと思う。和真と駆け落ちしていただろうか。それとも諦めて千景と結婚しながら、たまに和真と会っていただろうか。でも、和真のことだから俺の結婚の日が決まったら別れようと言われていただろう。不倫をよしとしない男だったから。  和真の事故死が別れとなってしまったけれど、生きていても別れてしまったのだろうと考えるととても悲しい。結局、千景という婚約者がいたら和真とは別れる運命だったんだろう。いや駆け落ちしていたら別だが。  でも、そこで千景のせいにする気はない。千景は俺の言動に嫌な顔ひとつしないし、いつも笑顔でいる。でも千景だって親が決めた相手と結婚するという被害者だし、千景が俺になにかをしたわけじゃない。それどころか、好きで結婚したわけでもない俺のために週末だけとはいえ食事を作ってくれる。だから千景を恨むことはない。感謝しているくらいだ。  恨むのなら母さんだ。身近にオメガで出自の良い子がいるからと、千景がまだ赤ん坊のときに将来を決めた。そのときは俺もまだ小さかったからそれがどういうものかよくわかっていなかった。ただ、将来、あなたはこの子と結婚しなさいと言われて、世の中はそんなものなんだと頷いてしまった。  大体、令和のこの時代に家柄云々言うのは時代錯誤だろう。皇室でも恋愛結婚が許されているのに、なぜ庶民の俺たちが家柄云々で結婚を決められたのか。それがどうにも納得できない。  それでも、千景との生活は悪いものではないと思っている。最初にお互い干渉はなしでと言ったからだろう、千景は俺にまとわりついてこないし、なにも要求しない。それなのに週末には俺の食事まで作ってくれている。これには文句を言ってもいいのに千景はそんなことは言わない。だから、申し訳ないけれど母さんの存在がない分気が楽だ。  そんな結婚生活だけど、たまに思う。今、和真が生きていたらどうなっていただろうかと。もしかしたら千景と結婚はしたかもしれない。でも、外に恋人がいるような男に対して離婚届を叩きつけてきたかもしれない。でも、そんなたられば話しは考えたって悲しいだけだ。逆に和真がこの世にいないという事実を突きつけられるだけだ。 「陸さん、お食事ができました」  千景の声に我に返る。そうだ。週末ではないけれど、休みの今日は千景が食事を作ってくれるんだった。午前中に花を買いに行ってからずっと部屋に籠もって和真のことばかりを考えていた。   「今行く」  そう返事をして部屋を出た。

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