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忘れられない5
「うわ〜お洒落だなぁ」
海外からの輸入品の食器類を見ながら千景が感嘆する。目の前の皿は確かに綺麗だ。そう考えて、結婚するときはあまり考えずに母さんが食器を選んでいたな、と思い出す。
「買うか」
俺がそう言うと千景はびっくりした顔をする。なにがそんなにおかしいのだろう。俺はなにも変なことは言っていないのに。そう思っていると千景が口を開く。
「高いですよ」
そう言われて値札を見ると、確かに結婚時に母さんが選んだものより多少高いかもしれないが、買えない値段ではない。
「よく使う皿だけでも揃えたらどうだ。そんなにびっくりするような価格でもないし」
「でも……いいんですか?」
「皿は毎日使うものだ。気に入らないものを使うより気に入ったものを使った方が気分もいいだろう」
「そうですけど……」
まだなにかを迷っている千景を横目に俺は千景が見ていた皿を手にする。お洒落なだけじゃなくて作りもしっかりしているから、そんなに簡単には割れないだろう。そう判断すると俺は数枚の皿の会計を済ませた。それを千景はびっくりした目で見ていた。
「なんだ?」
「え、だって高いのに」
「見たら厚みもそこそこあるから簡単には割れないと思ったから買った。デザインはお前が気に入ったのだろう」
「はい」
「なら高い買い物ではない」
そう言い切ると千景はなにも言えなくなったみたいだ。気に入った食器で毎日気分良く食事をすることを考えたら高いとは俺は思わない。その辺は考え方の違いなのかもしれないが、千景はお金を使うことに躊躇するきらいがある。
無駄遣いは俺もしない。でも、必要なものや今回みたいに毎日使うもので気に入ったものは買ってもいいと俺は思っている。お金は働けばいいだけのものだ。そうやってお金を使うことがないと、毎日大変な思いをして働いている意味が感じられない。欲しいものは買いたい。
「陸さん、持ちます」
そう言って今買ったばかりの袋を持とうとする。こいつはなんで自分でなんでもしようとするのだろうか。少しは甘えられた方が男は喜ぶのに。ああ、そうか。千景も男だ。でも、それなら男の気持ちはわかるだろうに。
「いい。俺が持つからお前は見ていろ。元町は久しぶりなんだろう」
「はい」
「それなら楽しめ。そして欲しいものがあったら言え」
「でも、そうしたら無駄遣いしちゃいますよ」
「必要のないものを買うのは無駄遣いだが、皿のように使うものであれば無駄遣いとは言えないんじゃないか。とにかく欲しいものは言え。無駄遣いかそうでないかは俺が判断するから」
そう言うと千景は眉をたらした。
たまにはこうやってショッピングをするのもいいと思うのだけど千景は違うのだろうか。
でもほんとに久しぶりのショッピングだ。年末も仕事がぎゅうぎゅう詰めだったから、たまにはこうやってお金を使いたい。ストレス発散だ。年明けはバレンタインデーに向けてまた会社は忙しくなるのだから。
そう思いながら2人で元町を歩いて行く。その中でお洒落な紳士靴やネクタイを見つけて買った。
そうやって俺は自分のものを買ったりしたけれど、千景は自分のものは買わずに家のものばかり見ていた。
気の済むまで買い物をし、食事をするのにいい時間になったので中華街へと向かった。
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