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君のことを考える4

 先生に言われ、戸ノ崎や一条と一緒に料理を取りに行く。パーティーのフィンガーフードだからと食事はあてにしていなかったけれど、ローストビーフがあったり、手まり寿司やキーマカレーがあったりとしっかりとした料理がいくつも並んでいた。  そこでチキンフライとガーリックポテトを取り、近くの席に座って食べる。ガーリックの味がしっかりしていて美味い。次にサンドイッチを食べる。それはローストビーフが挟まれていてたかがサンドイッチとは言えない豪華なものだった。先生の言う通り、一流ホテルだけあり、フィンガーフードもしっかりとした豪華なものだった。  そこでつい千景を思い出した。千景なら目をキラキラさせて食べるだろうか。今日は俺の分を作る必要がないけど、それでも作って食べるのだろうか。俺がこうして美味いものを食べているのだから千景もたまには美味いものでも食べに行けばいいと思うけれど、千景の性格からして、1人分でも作って食べそうだ。  千景は俺の渡す金で自分のものを買うのを躊躇する。それが千景の好きな本であっても。それでも最近はコーヒーを買いに行ったときについでにカフェで飲んでくるようにはなったらしい。あの物がいっぱい溢れたコーヒー専門店で。  俺の知っている範囲で千景が俺の渡した金を使っているのは好きなコーヒー豆1種類。豆を買いに行ったときのコーヒー一杯。そんなところだ。間違えてもランチで贅沢をして、ということはないだろう。夕食も。  いくら言っても千景は贅沢をしないし、俺の金も使わない。結婚してすぐに渡したクレジットカードも1度も使われていない。そんな千景だから今日だって俺がいないからと羽を伸ばしているということはないだろう。  やはり俺が連れて行かないとダメだなと思う。やはり今度千景の好きな元町に連れて行って、有名なフレンチの店で食事をしよう。来週末にでも連れて行こうか。 「陸。なに真剣な顔して食べてるんだ?」  声で意識が戻る。戸ノ崎が顔を覗き込むようにしている。 「いや、別に」 「なに? 千景くんに食べさせたいとでも思ってた?」  当たらずとも遠からずといった言葉にドキリとする。そうだ、俺は千景に美味いものを食わせたいと思ってた。元町に連れて行こうとも考えていた。なんで俺が連れて行く必要がある。金もカードも渡してあるんだし、1人で元町までだって行けるのだからわざわざ俺が連れて行かなくてもいいんだ。でも、と考える。美味いものを食べて喜ぶ千景の顔が見たいと思う。 「戸ノ崎、からかうのはやめろ。新婚なんだから考えさせておけ」  横からからかってくる戸ノ崎を止める一条の声が聞こえる。今はクラス会で戸ノ崎や一条と話している最中だ。千景のことを考える時間じゃない。 「意外とうまくやってるみたいだな」  と一条が言う。一条はいつも冷静で真面目で戸ノ崎のように人をからかって遊ぶようなことはしない。それでいて戸ノ崎と仲が良いのだから不思議な男だ。 「彼のことを考えていたんだろう」  なんでわかるのだろうか。そう思うけれど図星だからなんと返事をしたらいいのかわからない。 「なんでわかる?」 「そりゃわかるさ。幼稚園の頃からの付き合いだぞ」  それもそうか。人生の半分以上を一緒に過ごしているのだ。 「やっぱり千景くんに食べさせたかったんだろ。俺の当たりじゃん」 「だからお前はからかうのをやめろ」 「はいはい」 「もし、彼になにかしてあげたいと思うのなら後悔のないようにしてやれ。もう後悔はしたくないだろう」  後悔……。和真のことを言っているんだとわかる。千景には後悔のないように、か。別に大したことを考えていたわけじゃない。自分で食べに行かない千景だから、元町のあの店に連れて行こうと思っただけだ。そう思って頭から追い出した。

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