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重なる気持ち3

 23時半になっても陸さんは帰ってきていないようだ。お友達と会って話しが弾んでいるのだろう。いや、もしかしたら友だちじゃなくて陸さんの好きな人かもしれないけれど。そうしたら今日は帰ってこないかもしれない。そんなことを考えると、考えたって仕方のないことなのに落ち込んでしまう。  何を今さら落ち込むんだろう。だって、陸さんに好きな人がいるだろうなんてことは結婚する前からわかっていたことだ。  寝ようと自分の部屋のドアに手をかけたところで玄関の開く音がした。 「ちかげーー」 「陸。声落とせって。千景くん寝てるかもしれないだろ」  最初に僕の名前を呼んだのは陸さんだ。酔っているようだけど、陸さんの声なのはわかる。酔って帰ってくるなんて珍しい。今までそんなこと1度もなかった。いや、平日は知らないけど、こんなのは初めてだ。 「陸さん?」  陸さん以外の人の声も聞こえたし、いつもなら自分の部屋に入ってしまうけれど、気になって玄関に顔を出す。 「ちかげーー」  陸さんからはすごいお酒の匂いがした。かなり飲んだのだろう。そして酔った陸さんを送って来てくれたっていうところだろう。  陸さんは僕の顔を見ると抱きついてきた。それも強く。あまりのことにびっくりして固まってしまう。え? 陸さんが僕を抱きしめる? そんなことあるはずないのに。なにがどうなってるの? 誰かと間違えてるの?  僕がそんな風に静かに焦っていると陸さんを支えてきてくれたうちの1人の人に声をかけられる。 「千景くん、だよね?」 「はい……」 「俺は戸ノ崎、こっちは一条。陸の友人なんだけど、陸が飲み過ぎちゃって1人で帰れる状態じゃないから送ってきた。遅い時間に起こしてごめんね」 「あ、いえ。起きていたので大丈夫です」 「ご覧の通りなんだけど、酔ってると本音が出るからね」  酔ってると本音が出る? どういうことだろう? 言われていることの意味がよくわからない。 「ほら、陸。千景くんから離れろ。で、水飲んで寝ろ。大丈夫? ベッドまで連れて行こうか?」 「いえ、なんとか歩けるのなら、支えて行くので大丈夫です。ここまでありがとうございました」 「いや。飲ませちゃったのこっちだから。ごめんね。ほら、陸! 素直になれよ。じゃあお休み」  そう言うと戸ノ崎さんと一条さんは帰って行った。なんだかよくわからないけど、ベッドまで連れて行かなきゃ。 「陸さん、寝ましょう。歩けますか?」 「あるけるぞーー」  僕に抱きついていた陸さんは、僕にまわしていた腕をほどいたので陸さんを支える。とりあえず陸さんの部屋に連れて行かないと。  陸さんは千鳥足ながらなんとか歩いてはくれた。そうして陸さんの部屋のドアを開けて、ベッドに座らせたところで陸さんは支えがなくなり、ころんと横になった。 「――すきだぞ、ちかげ」 「え? ちょ、大丈夫ですか? 今、水を持ってくるので待っててくださいね」  今の好きってなに? 頭がパニックを起こす。すき、って好き? 突然のことに頭はパニックになるけれど今はそれどころじゃない。お水を持って来なきゃ。  そう思いキッチンに急ぎ、水を持って陸さんの部屋に戻ると陸さんは寝息を立てていた。僕がキッチンへ行った短い時間で寝てしまったようだ。わざわざ起こす必要もないかと思い、そのまま寝て貰うことにする。  ただ、僕では着替えさせるのは無理なのでそのまま寝て貰うしかないけれど。せめて布団だけでも掛けよう。暑いとはいえ、何も掛けなかったら風邪を引いてしまう。そして持ってきたお水はベッドサイドに置く。 「じゃあ陸さん、お休みなさい」  小さな声でそう告げると陸さんの部屋を出る。  それにしてもわからないのは、戸ノ崎さんの言っていた「酔っていると本音が出る」という言葉だった。確かに陸さんは酔っていたけれど。  でも陸さんに抱きしめられたのは初めてだ。酔ってのことだとしても嬉しかった。それは誰も知らない僕だけの秘密だ。好き、の言葉は消化できていないけれど。

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