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重なる気持ち7

 ランチに思いがけず陸さんから告白をされて、僕はふわふわと宙に浮いている感じがした。  箱根神社に行って海賊船にも乗ったはずなのに記憶に残ってない。それくらい衝撃的な告白だったんだ。でも今日泊まる宿に着いて、僕の意識はすっかり現実に戻された。  だってそこは庶民が、ちょっと奮発したっていう程度の宿ではなく、庶民にはどうやったって手が出ないとはっきりとわかる高級宿だったから。ホテルのスイートルームを和洋室にしてデッキをつけ、露天風呂もつけた感じだ。だからホテルのスイートルームより絶対に高いだろう。  部屋は足許から広がる幅5メートルを超える大口径のガラス窓で、大文字と遠くには相模湾も見ることができた。デッキに出ればさらに景色は広がる。 「陸さん。ここ……」 「いい宿だろ。客室が少ないから空きがあって良かった。最後の一室だったみたいだ」  うん、客室少なそう。こういうところを知っているあたり、陸さんって御曹司なんだなと思う。一般サラリーマン家庭育ちの僕とは違う。 「箱根には他にもいい宿はあるが、雑踏を忘れて一息つきたいときにはここが一番だ。疲れたときにどこにも行かずにここに籠もっていたこともある」  確かに浮世を忘れることはできるだろうけれど。でも、今回の旅行に関して僕はノータッチだったから何も言えないし。こうなったら楽しむしかない。  でも! 気づいてしまった。部屋の中から露天風呂が丸見えだし、なんならシャワーまで丸見えだ。ベッドからはなんとか見えなさそうだけど、なんでそんなところまでガラス張りなの? お風呂入るときどうするの!  「座ってなにか飲もう。コーヒー、紅茶、お茶があるぞ。冷蔵庫にはソフトドリンクもあるから好きなのを飲め」  あ。部屋に驚いてて、言われるまでお茶のこと忘れてた。 「陸さんはなにを飲みますか? 淹れます」 「お茶菓子があるから緑茶にしようか」 「はい」  きっとこういうところで使っているお茶っ葉って、いいのを使ってるんだろうな。間違えてもスーパーで売ってるようなお茶は使っていないだろう。  そんなお茶っ葉なのなら少しでも美味しく淹れようと、僕は真剣に淹れた。濃すぎず、薄すぎず、ほどよく。 「うん。やっぱりここが一番落ち着く」 「何度か来ているんですか?」 「ああ。子供の頃から来ている。ベッドは2台しかないけれど、布団を借りれば4、5人は泊まれる。ソファーもあるしな」  そうか。子供の頃から来ているのか。陸さんには駿さんというお兄さんがいる。家族で泊まるのならそんなに広いとは思わなかったかもしれない。でもそんな頃から来ているのなら、慣れているのも当たり前だなと思う。陸さんのそんな話しを聞きながらお茶を飲んだ。   「デッキにでも出てみるか。気持ち良いぞ」 「出てみます!」  部屋の中からでもこれだけの景色だ。デッキに出たらもっといい景色が見れるに違いない。デッキにはチェアとテーブルが置いてあるので、湯飲みをそのまま持っていく。外で飲むのも気持ち良さそうだ。  デッキに出ると箱根の渓谷と遠くに芦ノ湖、相模湾まで見ることができた。空気も澄んでいて、確かに東京から来たら気持ちいいだろうし、のんびりお籠もりするのも良さそうだ。  普通の旅館だとここまでのパノラマビューは見れないかもしれない。やっぱり高いからこその景観なんだろうな。大文字が見えるから、大文字焼きのときに泊まったら部屋から見ることができるな。 「大文字焼きのときに泊まったことありますか?」 「あるぞ。ここから見ることが出来て良かったよ。来年の大文字焼きのときにでも来るか」  あ! こんなにどう見たって高級なところにまた来たいなんて贅沢だよな。わがままかもしれない。 「金のことを考えているのかもしれないけど、ここはそれに見合うサービスだし、たまにのことだから気にするな」 「ごめんなさい」 「謝る必要はない。謝るよりありがとうと言ってくれ」 「ありがとう、ございます」  僕が感謝の言葉を口にすると陸さんは優しく笑ってくれた。そして僕の頬に触れ、ゆっくりと陸さんの唇が僕の唇に触れた。それは僕のファーストキスだった。 

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