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第23話 燃えろ
23話 燃えろ
ガルゴはリョウに誘われるままリョウの部屋に連れ込まれた。機嫌が良いのかリョウは微笑んでガルゴに頬ずりをしたり、手を触ったりとスキンシップが多かった。
ガルゴはこうしたスキンシップをリョウとはあまりしてこなかったせいか、変に緊張していた。
肌と肌が触れ合わせることなど何度もあったのに、いつもと違う手つきにガルゴは触れられた所が熱くなる。
「リョウ、一体どうしたんだ。」
今日はリョウの初めて見る顔が多すぎる。思わず顔を背けると、リョウはその首に猫のように頭を擦り付けはじめた。
「っ、くすぐったい。こら、リョウ。」
黒いしなやかな髪が首をくすぐるので手でそっと払うと、仕返しのようにまた頭を擦り付けてくる。それを何度か繰り返しクスクスとリョウは笑っていた。
「ガルゴ……。」
そう呼びながらベッドに二人で崩れ落ちる。ガルゴがリョウに触れるとくすぐったいと言って足をばたつかせる。
「どうしたんだ、リョウ。何かあったのか。」
ガルゴはリョウの頬に触れながら恐る恐る目を合わせる。リョウはガルゴの金色の髪を優しく指の腹で撫でながら言う。
「俺なりに色々考えたんだよ……。このままでいいのかとかお前との関係とか。」
その言葉にガルゴは身を固くする。
「……ここから出ていくのか?」
答えは考えたくもない知りたくもないが不安はガルゴの口から溢れた。
「出ていかない。行く場所ないし。」
あっさりとリョウは答え、平然としながら言葉を続ける。
「俺はやっぱりお前の望むようには成れないし、成る気もないらしい。ははっ、だから……。」
「だから?」
言い淀んだリョウは自身の唇を指でいじりながら視線を落とす。
「……ガルゴ、お前にまた。いや、なんでもない。」
そのままぎゅっと丸くなりガルゴの体に収まる。
「おい。なんなんだ?」
リョウの肩を掴み揺さぶる。リョウがそんなガルゴを無視して目を固く閉じ自身の腕を強く掴み。自身を抱きしめ首を振った。
「言う気がないのか?」
縦に首を振る。
「……もう寝るのか?」
ガルゴは起き上がろうとするとリョウは袖を掴み止める。
「……一緒に寝よって言った。」
ボソリとつぶやくリョウ。ため息をつきガルゴは彼を覆い被さるように抱きしめる。ガルゴはリョウのことがますます分からなくなっていた。
…………
翌朝、ガルゴは目を覚ますとリョウがその腕の中に居ないことに気づくと顔を枕に落とし、再び瞼を閉じた。
その時、リョウはガルゴの家を出てすることも無くその辺をうろついていた。
すると、ユズキから連絡が入りいつものように遊びに出かけた。
「リョウちゃーん!」
バーの奥の座席にいたユズキは、金髪をなびかせわざとらしい大きな態度でリョウを出迎える。
「ん、やっほ。」
「ひさびさに会ったね?リョウちゃん。」
大きい動きで首をかしげ、隣に座るよう椅子を叩いた。
「そうだね?まぁ、色々あったしぃ。」
「だね……でもわりかし経ってるんだよ?いつの間にか。」
「……。」
「まぁ、あの後オレらはまだ仲良くしてるし!ユウジも二人によろしくって言ってたよ。それに、会いたいって。」
「なんでさ?」
「落ち着いて話してみたいってさ。でも、別に会わなくてもいいよ。……あの人となんかあったんでしヨ。」
リョウはぱちくりと目を見開くと、視線を別の方にやる。
「ああ、分かる?」
テーブルに肘を置いて顔を手で覆う。
「……うん。ほら、オレってケンカして家出てるしぃ。」
リョウがため息をつき手の隙間からその長い金髪を見る。すると、店員が注文を聞きに来たのでリョウはクーニャンを頼んだ。
「かわいいもの頼むネ?」
それを聞いてユズキがリョウの顔を覗き込む。
「酔っても酔わなくても気分は最悪。中途半端な気分なんだよ。」
「ふぅん?」
二人はチビチビとお酒を飲みながら他愛のない話をする。相手のことに近づき過ぎず、一定の距離を保ちながら。
そんな息のしやすさをリョウは感じながら、どこか胸の奥で引っかかるものを覚え、それから逃げるためグラスを傾ける。もっと強いものの方が良かったと後悔しながら喉に冷たい液体を流し入れる。
「アッ、見てよコレ!」
ユズキは思い出したと、楽しそうに携帯の画面を見せてくる。その画面にはユズキとユウジが笑って手を見せてる写真が映されてる。
「なにこれ?」
「なにって、これ、よく見てよ!ココ!」
手のところをズームし、指にはまってる指輪が光ってるのが見え、リョウは納得したように頷く。
「指輪買ったんだ。……でも、今付けてないじゃん。」
「今はね!裏側にイニシャル掘ってもらってんの!お互いの!コレは店でサイズの確認した時のやつネ。」
ユズキは大きな身ぶり手ぶりでその時のことを話す。ユウジが提案してきたこと、どうしたかどう感じたか、選んだ時のことなど見たこともないような顔で話す。
リョウはそんなユズキを見てグラスについた水滴を指でなぞり流し聞くようにしていた。元より他人の幸せに興味は無いし、もうコイツは遊び相手にはならなそうだなとか関係ないことを考えていた。
「リョウちゃんは?どうなの?何かあったら話してみてもいいんじゃないカナ?」
語尾が上がってる変な口調で話を振ってくる。
「はぁ?」
思わず間抜けながらも苛ついたような声が出る。
「別に……何ともないし。」
「でも、最近夜遅くに出歩いたりして無いんじゃない?話聞かないよ。」
周りをきょろりと見て話す。噂話が好きな奴、おしゃべりな奴はどこにでもいる。きっとリョウが来る前にユズキは周りに聞いて回ったのだろう。
「お前には関係ないだろ……。」
「ん〜、リョウちゃんは人付き合い下手くそなんだからぁ~。」
そう言ってリョウの頭をグシャグシャと撫でるものだからリョウは少し苛立ちを覚えながら彼の手を払い、分かりやすく舌打ちした。
「あははっ、リョウちゃんかわいい〜。」
「そうかよ。」
「つれないなぁ、ねぇリョウちゃん。リョウちゃんは誰かと一緒にならないの?」
「……。」
「んぅ?」
「……ならない。向いてないね。」
「……そっかぁ。」
チビチビと酒を飲んでユズキはソファにもたれ掛かる。まだ入ってるグラスを掲げ、そのグラス越しに天井の照明を眺める。キラキラと反射し、酒の中を通って目に入ってくる光は馴染みのある光だった。人工的なその光こそ二人を落ち着かせ、目の奥を刺激した。
「……大変なこともあるけど、楽しいよ?」
ポツリと呟いてみる。リョウの方を見てユズキは眉を下げながら反応を待った。
「大変なことのほうが多すぎる。そんなのに耐えてたらおかしくなる。」
「怖いんだ?」
「……。」
「そう、怖いよね。考え方も生きてきた道も全く違って……。」
「……。」
黙ってしまったリョウの為にユズキはもう一杯酒を注文する。二人はゆっくりと酒を飲み、何も喋らず遠くを見つめるしかなかった。
――――
その夜。少し冷たい風を体に受けながらリョウはガルゴの家に帰ってきた。ふと、扉を開ける前にポストボックスからチラシをはみ出しているのを見かけ、何となく引っ張った。
すると、その下にあったのだろうか封筒がヒラリと落ちた。めんどくさがりながらもそれを拾うとリョウはそれを勝手に広げた。
そして、また読み終えたその手紙を封筒に戻し家に上がろうとしたが、思いとどまり家の裏に向かった。
家の裏にある倉庫の前にある少し余ってるスペースにしゃがみ込み、持っていたライターでその封筒に火をつけ、燃えてるその様子を虚ろな目で見つめていた。すると、匂いで気がついたのかガルゴは駆け寄ってくる。
「おいっ!何してるんだ!」
肩をつかまれ、リョウは彼から目をそらす。
「おい、なんだこれは。」
何も言わないリョウを見て、仕方ないと燃えてる封筒を踏み、火を消そうとする。
「……はっ、この!」
何度か踏んだり、砂をかけると弱々しく炎は消えていく。それを見てリョウは自分がした事にとても嫌気が差した。
「……くそ、少ししか読めないな。けど、これ俺の家からだろう。この字は俺の母のだ。」
ガルゴは何故こんな事をしたと聞くように視線をリョウに向ける。リョウは目線をそらしガルゴの方を意地でも見なかった。
焦げた匂いと、夜の静かな空間のせいでその無言の時間はかなり長いように思われた。けれど、ガルゴはリョウの腕を引き、何も言わないで家に戻った。
「……今日はもう寝ろ。」
ボソリとそれだけ言って、部屋の前にリョウを連れて行った。ガルゴは封筒を見ては、ため息をついて自室に入っていく。
リョウは言われたとおりに部屋に入り、ベッドに崩れ落ちた。なぜあんな事をしたのか自身でもよく分からなかった。いや、分かっていたが認めたくなかった。
リョウは布団をかぶり、体を温めようとしたがその日はとても冷えて体の震えが止まらなかった。
次の日、いつの間にか眠っていたリョウはのそのそと起き上がってリビングへ。
ガルゴはもう起きていて仕事の準備をしていた。
「おはよう……。朝飯は冷蔵庫にあるからしっかり食えよ。」
「……うん。」
「それじゃ、もう出る。もし、外に出るなら戸締まりはしろよな。」
「……うん。」
ガルゴは忙しいのかさっさと家を出ようとする。その背中を見てリョウはどこか胸の奥で鈍い苦しさを感じたが知らないふりをして、ソファにゴロリと寝転ぶ。
リョウはなんだか酷く疲れていた。そしてまた、深い眠りのなかに潜っていった。
リョウは夢を見た。明晰夢というやつで、これが夢だと分かりながらそれを見た。また、昨日の夜のように自身が何かを燃やしていた。夢だからか焦げ臭さや熱さは感じなかった。
単純だなと少し呆れながらも、手元にある紙やらを燃やし続けた。
適当に拾っては燃やし、拾っては燃やし。ふと、それはなんだろうと掴んだそれを見た。
それは、写真。
一枚、一枚、知らない男や女が写っていた。なんだか気味が悪く、すぐにそれらも燃やした。しかし、どこか見覚えもあるような気がして、何回か燃やした後もう一度写真を見てみた。
知らない女だった。リョウはなんだかその女が心底気に入らない気持ちになり、床に投げつけて燃やした。
リョウはなんだか心が軽くなったような気がして、その後もどんどん燃やし続けた。
燃えろ、燃えろ。これも、これも、それも、あれも。燃えろ、燃えろ。
燃えて無くなれと無我夢中で。
気がついた時には写真はなくなっていた。
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