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兄としてだけじゃない思い

兄の住むアパートの隣室に越してきて約2週間が経った。 兄、といっても義理の兄。 母が再婚したため兄と同じ姓になったけれど、兄が16、俺が12歳の頃に俺たちは出会った。 といっても義理の兄弟として。 引きこもりがちで日光を浴びる時間が少ないせいか色白でどちらかといえば華奢でおとなしい俺と違い、兄は日に焼けた肌と愛嬌のある爽やかな笑顔。 「俺、ずっと弟が欲しかったんだ!よろしくな潤」 そう笑って俺の頭をクシャ、と撫でてくれた。 緊張しながらも兄の明の無邪気な笑みに釘付けになっていた。 それからは、 「潤、サッカーボールないのか?だったらやるよ。いや、シェアするか」 俺は母と二人暮しだったため、金銭的な余裕がなく、昔からみんなが遊んでいるおもちゃ類などを持っていなかった。 兄はサッカーボールやグローブ、ゲームなどを気前よく貸してくれ、一緒に公園で遊ぶ日が増えた。 当時の楽しい気持ち、兄を盗み見し勝手にときめく日常が永遠に続くことはなく。 兄が大学に合格し一人暮らしを始めるために自宅を離れるとわかり、俺は単に寂しいだけでなく、いつしか兄弟愛としてだけでなく、兄を一人の男としても意識していたことに気づかされた。 兄の明は18になり、俺は中3。 兄がダンボールに荷物を纏めるのを手伝いながら 「置いていかないで」 とは言えなかった。 俺が高校の受験を控えているように兄には兄の生活がある。 その受験勉強すらも兄は時折見てくれた。 「お前も高校、受かったら連絡しろよ?なにか美味いもんでもご馳走してやるから。焼肉とかどうだ?」 「うん...いいね、焼肉。頑張る。お兄ちゃんも頑張ってね」 「ああ」 言葉通り、緊張しながら兄に電話し、高校に無事入学できたことを告げると、 「マジ!?良かったじゃん!」 兄はちゃんと覚えていてくれて、焼肉屋に連れて行ってくれた。 何度か兄の住むアパートに遊びに行ったことがある。 ただ、いつも 「必ず連絡してから来いよ?俺がいるかわからないし」 その意味が兄には言わず隣室に住み始めてからわかった気がする。 兄にはたぶん恋人がいる。しかも男の。 時折、互いに窓が空いていると二人が楽しそうに喋る声、時折セックスしているような声も聞こえてきたからだ。 兄の部屋は角部屋で隣は俺だから他の住人が気づくことはないだろう。 兄の部屋に遊びに行った際、隣室が空き部屋になっていたことに気づき、母に密かに頼み契約し越してきたこと。 義理の父と母が兄が大学入学し、一人暮らしを始めた後しばらくしてから不仲になっていることもたぶん、兄は知らない。
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