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11.戸隠さんとカウントダウン⑤

 玄関の鍵を回す音とガサゴソという買い物袋の音が静まり返った部屋に響く。 「どうぞ」  何時に帰るかわからなかったのでタイマーをつけていないエアコンはうんともすんとも言わないまま、まるまる一日主が不在だった部屋は冷たく時を止めていた。 「おじゃましまーす」  足だけで器用に靴を脱いで、そろっと戸隠さんが入ってくる。彼の持っている荷物の中には冷蔵庫にしまわなくてはならないものはない。一方で俺の方は手にした袋を床に置き、冷蔵庫の前で腰を下ろして扉を開けた。 「荷物はとりあえずテーブルの上に置きましょうか」 「そだねー」  小さな炬燵にもなる座卓の上に両手の荷物をおいて戸隠さんはあたりを見回す。30日は念入りに掃除して、出しっぱなしのものもない。部屋中の衣類に吹きかけた消臭剤は俺の匂いを引き連れてすっかり乾いている。ただその片付き具合を、 「わー。童貞君のヤリ部屋みたいだ」  と戸隠さんは笑った。  言いたいことはなんとなくわかる。いつもならこんな状態じゃないのに、いやらしいことを期待して変に片づけて生活感が殊更意図的に排除されていることを言っているのだ。ベッドの枕もとに置かれた箱ティッシュの位置や、そのすぐ足元に置かれた袋のセットされたゴミ箱の位置の整然さなんかもそう。  俺は図星を刺されて宇宙猫の顔である。無言で冷蔵庫のオレンジ色の光を凝視したまま淡々とモノを片付ける。  戸隠さんはそれをにやにやと見つめてから、リビングに隣接したベッドルームのセミダブルベッドへとふわっと倒れるようにしてダイブした。 「戸隠さん?!」  わりとばふん、という大きな音が響いたので、俺は冷蔵庫の整理もそこそこにベッドルームを覗き込む。戸隠さんはベッドを抱くようにうつぶせになっていた。 「ベッドひろーい。うふふふ」  ご機嫌は大変に良さそう。  長い手足を小さくぱたぱたする姿が高身長の成りには不釣り合いに可愛らしい。俺はベッドへゆっくりと歩み寄り、ベッドサイドの頭に近いところに座る。ぎし、と小さくスプリングが鳴いた。 「……湊人君の匂いがするね……」  うつぶせのまま、顔だけを俺に向けて、戸隠さんは蠱惑的な笑みを見せる。いつもの猫撫で声が少し掠れて色っぽかった。  意図しているのかしていないのか、しなやかな肢体の一つ一つの動きやポーズが猫のように柔らかく媚態めいて見える。  当然、俺のムスコにはどれだけ太ももに力を込めてもぎゅんぎゅん力が漲ってくる。気を紛らわせようと少し視線をそらした。 「スプレーしたんですけど。臭かったらすいません」 「ううん。僕、湊人君の匂い、好きだよ」  戸隠さんの長い腕が上がり、白くて長い指が俺に差し伸べられる。頭を少し下げると首筋を捕まえられる。そのままぐいっと引き寄せられて、少し上半身を上げた戸隠さんと唇が重なった。 「んぁ……ん、ん……ンん……ぁ」  浅く唇と舌先だけで互いを味わう。性急さはない。ゆっくりと、ねっとりと、甘く、誘うように。その間に戸隠さんが猫の仕草で身を起こし、俺の項に両腕をかけてしなだれてベッドへと引き寄せる。  俺は抵抗しない。与えられる戸隠さんからの力に流されて倒れ込む。最初は俺が戸隠さんにのしかかるような形で抱き合ったが、キスに夢中になっている間に、攻守が逆転していた。  戸隠さんが俺の頬に、耳元に、その裏に、項にキスをし、くんくんと匂いを嗅ぐ。かかる吐息も長めの髪も少しくすぐったくて俺は首をすくめた。 「待って。風呂入ってないから、臭いでしょ? 徹夜明けですよ、俺達」 「好きって言ったじゃない。ワイルドで。若いね」  首元にも顎にも鼻を寄せてくるから、俺は反撃とばかりに彼の額にキスをして、髪の中へ鼻を刺し込んで思いっきり深呼吸してやった。戸隠さんは恥ずかしそうに眉尻を下げる。 「ちょっと……こんなおじさん匂ったって、加齢臭しかしないでしょ」 「すっごい良い匂い。興奮する」  ほら、と俺はいきりたったムスコをパンツ越しに擦り付ける。  戸隠さんがくすくすと笑いながら耳元で囁いた。 「抜いてあげよっか?」 「後で。今は匂いを楽しみたい」  肩口に、項に顔を埋めて存在を味わう。その間、お互いの手が相手の服を一枚、また一枚と薄皮をはぐように脱がせていく。元がタチ同士なのでそのあたりの手管は慣れたものだ。パンツのウエストを緩めるときの、ベルトやジッパーの触れあう金属音がイヤらしく、艶めいた興奮をなおそそる。  戸隠さんが俺の腰の上で膝立ちでまたがったまま、ストリッパーがみせつけるようにゆっくりとハイネックのセーターを自ら脱いでいく。白い裸体はうっすらと汗ばんで桜色に染まり、つつましく実る果実がセーターにひっかかって豊かな胸をふるりと揺らした。  俺もそれに応えて脱ぐ。最終的に着ていた衣服はすべてベッドの下へ脱ぎすてられ、二人とも下着一枚の姿になる。 「寒くない? エアコン、ついてないけど」 「ううん。熱い……もっと、熱くしてよ、湊人君」  薄い唇を短めの舌先が舐め、かきあげた長めの髪の隙間から、興奮で潤んだ目で俺を見る。こんな色気のあるアラフィフなんて未だかつて見たことがない。  じっとりと湿った俺の、腰の上に跨がったまま戸隠さんは未踏破の俺の首筋や鎖骨、胸の間、肩口などに舌で触れ、唇でうっすらとした侵攻の証を残す。甘く噛まれたところがジンジンと熱くなる。これまでタチとしてはあまり経験の無い刺激にムスコがだらしなく汗を滴らせる。早く触れてとガッチガチになって戸隠さんの股の間で強い自己主張をしていた。  戸隠さんは下へ下へと体をずらしていく。俺が大きく足を開いていると、その間にするっと入り込んで、太ももの上に俺の腰を抱え上げた。  このまま、挿れられてしまうんじゃないだろうか。  それならそれでもいいかなどとは思ったが、やはり戸隠さんの布地の少ない下着に包まれた彼自身は柔らかそうだった。対してガッチガチにいきりたった俺のムスコが勝手に蠢く。濡れたパンツの上から鼻を寄せた戸隠さんが、上目遣いに俺を見た。 「すっごいね」 「……脱がせて……」  俺が甘えると戸隠さんが俺の臍にちゅっとキスをしてから、その口で浮き立った下着のウエストを咥える。少し下げるだけで待ちかねたムスコがむわっとした男臭い発情香をまとって飛び出し、勢い余って戸隠さんの白い頬を嬲った。 「ん……っ」 「あ、ごめっ」 「ううん。いいよぉ」  うっとりと見つめてから、戸隠さんは形のよい薄い唇の割れ目を俺の涎を垂らす筒先に当てた。  ずろろ、っとたっぷりとした唾液に溢れた腔内へ俺のムスコが根元まで吸い込まれていく。唇の端から溢れた滴が顎を伝って引き下げられた下着に滴っていく。テレビでもオーディオでもいいからなんらかのBGMがあれば気が紛れるのに、まったくの静寂の中で俺の肉棒を美味しそうにしゃぶる音と、時々鼻に抜ける声しか聞こえないのが妙に艶めかしい。気合いを入れないと簡単にもっていかれそうだった。 「ん……ぅむ……ん、ん…………ん……」  俺は汗で軽く毛束がまとまりうねり始めた戸隠さんの柔らかい髪をゆっくりと梳く。腹筋を使って少し上半身を起こして眺める光景は絶景だ。なお俺の肉棒を固く熱くした。 「美弥さん……フェラ、巧いね。好き?」 「ぅん」  咥えたまま眼鏡の上部からの上目遣いで頷く。可愛い。俺も彼を可愛がってあげたくなった。 「ちょっとだけ、こっちにお尻向けて」  腹筋を使って俺は上半身を完全に起こす。足の間でひれ伏すようにしゃぶり続けていた戸隠さんに片足を跨ぐようにお願いする。太ももにむっちりとした胸が、足首あたりにふわふわした股間の温かさを感じる。戸隠さんのきゅっと締まった綺麗なお尻にはTバックの紐がイヤラしく食い込んでいた。  少し上半身を曲げて桃の皮をむいたように滑らかで艶のあるまあるい尻肉に手を伸ばし撫でまわす。普通アラフィフのサラリーマンなんて毛むくじゃらでざらざらで肉が薄くて垂れてたりするのに、バックスタイルはまるで10代だ。 「んっ……ん…………ふぅ…………ん」  俺のムスコを頬張る戸隠さんの、鼻から抜ける吐息に艶が加わる。心なしかその腰はもじもじと揺れていた。  俺の口元がにやりと歪む。べろっと掌から中指にねっとりと唾液を塗りつけるように舐めると、もう一度尻に触れTバックの紐をずらし、双丘の奥にある彼の処女穴に伸ばした。  ちゅぱ、と秘穴が甘く吸い付いてくるように指先を受け入れる。少しぷっくりと膨らんだ縁が蠢く。指先に触れる中の感触はトロトロに熱く、ゆるんで俺を誘っていた。 「エッロ」  俺の肉棒を夢中でおしゃぶりする戸隠さんのペースにあわせて、秘穴を解していく。  ただでさえ少々綻んでいた蕾がどんどんと花開いていくのを指先に感じていた。  思い出すのはベッドの上、枕の下。隠されていた使用済みのローションのプラスチック容器と黒い医療器具(エネマグラ)。  夜な夜なあの部屋で一人、タチでは見たことはないだろう堅い秘蕾を自分で解している戸隠さん。その脳裏に思い浮かべる卑猥なシチュエーションはどんなもので、彼を抱いていたのは誰だったのだろうか。  俺の胸にちりっとした焼けるような痛みを感じる。それは目に見ることは叶わない、けれど戸隠さんを好き勝手に嬲る脳内の恋人に対する嫉妬だった。  自然と指先にぐっと力が入ってさらに奥を探り、動きも巧みにそして執拗になってくる。   「どんな感じ?」 「……ひぇんな……ぁんじ……」  戸隠さんは俺の肉棒を咥えたままで答える。視覚的な刺激と、にゅるにゅるとトロトロになった内頬から堅い上顎があたる予想外の口腔内の刺激に急激に強い射精感がこみ上げてくる。 「あ、あ、ぁ、きもちいぃ~……めちゃ……あ、あ、あ、だめ……だめ……で、る……ぅ……っん!」  腰が浮く。それを見計らったように戸隠さんは喉奥深くを開いて俺の筒先を迎え入れた。  腹筋が強く収縮して口腔内で跳ねる肉棒とともに腰が不随意に揺れる。二日分たまりに溜まった重い金玉から濃い白濁が次々とあふれ出てくる。それを飲み込む戸隠さんの喉の動きが扇情的だった。  筒先に吸い付いた唇が残滓と唾液のとろりとした粘液の糸を繋いで、じゅるっと脱力した俺の陰茎を吐き出す。  一方的で強制的な口内搾精発射。羞恥と心地よさで顔が熱い。口元を掌で隠す俺の顔を見上げて戸隠さんがふわっとかわいらしく微笑んだ。 「好きなんだよね、される側のイク時の顔。蕩けちゃって、かーわい」  やっぱりタチだ、この人。  俺は苦笑いをしてから唇に軽くキスをする。 「お風呂、行きましょうか」  俺はドロドロになった下着を脱いで、戸隠さんをバスルームへと誘った。

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