53 / 54

12.戸隠さんと俺とNew year,New World②

 カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋の埃に当たって白い光の帯をベッドに落としていた。  まだ激しくはしない。挿れたまま、反応のゆるい戸隠さん自身を扱きつつ、ゆるゆると中になじませるように揺らす。時折軽く出し入れする時も、イイところは知っているからそこを雁と竿で小刻みにこすってやるように動く。  それだけなのに、もう戸隠さんはたまらなくなっていた。 「あん……あっ……何……これ……気持ちいい……あ、あ、あ…………ん、ん゛~~~ッ」  恍惚とした顔でしなやかな腰を逸らす。ソファーで恥ずかしがっていた時よりも大股を広げているというのに、それを恥じる余裕もない。俺がぐっと奥へ押し込むと条件反射的に逃げようとするから、首に腕を回して強く胸に抱き寄せる。 「動くよ」  俺はがっちりと戸隠さんを組み敷いたまま腰だけ揺らして出し入れする。ぎしぎしと一定の間隔で揺れるベッドの上で戸隠さんは未知の快楽の波に抵抗し、戸惑う生娘みたいな半泣き顔でう~う~と声にならない呻きを漏らしていた。 「痛くない?」 「大、丈夫……ぅ~……」 「気持ちいい?」 「キモチ、イイ……でも……あ、あ、あ……怖、い……なに、なに、なにこれ……ん、んン」 「中も外もキモチイイね」 「湊人君は?」  吐息のような囁きが俺の耳をくすぐる。少し掠れて、ただでさえ舌足らずなのに呂律が少々怪しくなった感じの高めの甘い声が、俺の背筋をぞくぞくさせる。    「キモチイイよ。お……ぁ……おぅ……イイ……今、中締まったのわかる?」 「わかんないぃ……あ、あん……ん゛~……ん、ん、ん……あ……っ、は……ん」 「あ~……きもちイイ。美弥さん感じてるね。中がすごく俺に媚びてるよ。ねっとり……フェラ、されてるみたい」 「あ~……あ~……あ~……えっ……ん、あ、あ、あ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぁ」 「はぁ……キモチいい……すっごい……ナカとろとろなのに、きゅっきゅって締めてくる。かわいい」 「ぇ……うそ……んん、ん、ん、あ゛~……っ」 「おちんぽもすごく感じてるね。久しぶりでしょ。こんなに張ってるの」 「あ、あ、だ、だめぇ……さきっぽ……ぐり、ぐ、りしないで……で、でる……でちゃう」 「いいよ。ふぅ~……あ、中がまた俺に甘えてる」 「あぁ~……ん、変に……なるぅ」 「いいよ。変になって。イキたい?」  戸隠さんの耳元で囁く。戸隠さんが切なく眉根を寄せて、こくこくと頷くのが可愛い。  初めては優しく抱いてあげたいのに、種付けをしたがる俺の本能が止まらない。交わりはゆする程度だったのに肌と肌がぶつかり、触れ合うようになる。  外から初詣に出かける人や車の音という日常が聞こえ始める中、この部屋の中だけは夜の気配を残して淫靡な音が響いていた。 「あ……湊人君……また…………お、っきくなった、ね」 「わかる?」 「すごく……ドクドク……してる。イくの?」 「イきたい。美弥さんと一緒に。イイ? ちょっと激しめに動くけど。痛かったら、言って。我慢はしないでね」 「うん」  俺は体を起こしてぐっと腰を掴んで引き寄せる。丁寧にほぐされ、高められて、戸隠さんはすっかり理性を飛ばしてトロトロに蕩けている。白い肌がうっすらと桜色に染まる。指先や、目元、勃ちあがった胸や筒先が八重桜のように濃いピンクに染まっているのも艶やかで美しい。  俺は繋がり合った場所にたっぷりとローションを継ぎ足す。それを中へも刷り込むようにゆっくりと肉棒の抽挿を繰り返した。  ぬちゃ、くちゅというローションが泡立った音がいやらしい。オナホールでは味わえない溶けた熱さとねっとりとした縋り付きに、尾骨のあたりから背筋をぞくぞくと震えが走る。  かなり気をつけないと意識を持っていかれる。  それは戸隠さんも同じで、彼はしなやかな腰を逸らし、豊かな胸をゆさゆさと震わせて、両手で顔を覆っていた。 「顔、みせて」  腰は止めることなく、そっと戸隠さんの手を取る。その手を左右ともベッドの上に縫いとめると、潤んだ瞳からつつっと涙がこぼれた。  俺はそれを唇で吸い取る。甘く切ない味がした。  両手に全体重をかけてシーツに縫い留め、俺は戸隠さんの中を穿つ。 「ん゛、ん゛、ん゛、ん゛、んぁあ゛~……あ゛~……あ゛~……あ、あ、あ、ああ゛~……」  だらしなく開かれた形の良い戸隠さんの口から全力で走るときのような荒い呼吸とともに嬌声が零れる。うっすらと隙間を見せる開いた瞳は焦点をうしなって、開いた瞳孔の洞に俺の姿だけを映していた。  その姿が壮絶に艶めいて、俺の股間を直撃する。  もう、手加減なんてしていられなかった。 「あ、あ、あ、あ……美弥さん、美弥……イイよ……すごい……綺麗だ……ああ……っ、スゴ、い……ああ……ぁあ、あ、あ、あ、あ……ん、イキそ」 「あ、あぁ……ん、僕も……い、いく……出る、でる、でちゃう」 「ん、いこ。いいよ、いっぱいだしちゃっても。キモチイイ?」 「うん……ぁ、ぁ、ぁ……ん……湊人君……き、す……キスし、て」 「ん」  解いた手で互いを強く抱き寄せて、伸ばして迎え合う舌を触れ合い、蛇の交尾のように濃厚に絡み合う。  熱い。  風呂場でふれあった時よりも、思っていたよりも、ずっともっと熱い。  交わる腰つきは絶頂の一瞬を目指して激しく、お互いの気持ちを誤魔化すことなく欲望をぶつける。 「ん、んん……あ、あ、あ、あ、あ、すごぃ……湊人ぉ、アツぃぃ…………い、くっ…………イッちゃう」 「イッて。はぁ……はぁ……美弥、めっちゃエロい……ナカもキモチいい……やべぇ……もう、ダメ……俺も……イ、く……イク、ぁあ、イク……っ」 「ん、ん、ん、ん゛、イクイクイク……んっ……イ、グぅ……っ…………ッ、ぁあ゛!!」 「ヤバイっ!! ぁ! あぁ……ぁ……ぉぁあ……ン……っん……ふぅ……」  情欲(パッション)が感情の火花になって目の前に白く散る。交わしたキスはどんな果実よりも甘く、ねっとりと溶け合った。 「ネコの才能あるよ、美弥さん」  呼吸が落ち着いたところでいったん離れてぐちゃぐちゃになったゴムを引き抜く。ここ最近ではありえない程ぽったりとした白濁を吐きだしたというのに、俺のムスコは全く萎える気配がない。  しかしベッドに横たわる戸隠さんは仰向けのままぐったりとして指一本も動かせそうになかった。その腹には彼の出した白濁が真珠の玉のように広がる。俺はそれをウェットティッシュで拭ってから、まだまだやる気のムスコを軽く宥めてやりつつ、戸隠さんの隣に寄り添った。  戸隠さんは首だけを俺に向ける。背負ってきたいろんな柵や憑き物がおちたようにさっぱりした顔つきだ。微笑むと少女のように可愛らしかった。ただ声は、少々深酒した翌朝の中年のようだった。 「湊人君が上手なんだよ。こんなに気持ちいいのに、すごく丁寧で、優しかった」 「でもこれからはネコになるのは俺だけにしてね。割と嫉妬強めだから」  気だるげにキスをして、見つめ合う。濡れた目元が朝露を湛えたようで綺麗だった。その朝露がふわっと溢れて、目元を伝う。  俺は頬に流れた跡を指で拭い、目元に軽くキスを落とした。 「気持ち良すぎて、怖かった?」 「それもあるけど……」  ゆったりと戸隠さんが俺に向き合い、体を預けてくる。胸元に顔を埋めて表情はわからなかったけれど、肩が少し震えていた。 「……僕はこんな優しく、愛おしく、誰かを、美俊さんを抱いたことはなかったんだ」  きっと今の戸隠さんには幸せの分だけ、胸には深い後悔が押し寄せているのだろう。  彼はネコになる痛みと羞恥を罰にしようとしていた。でもそれはただの逃げだ。むしろ幸せであればあるほど感じる後悔の方が、贖罪という点ではずっと厳しいだってある。  俺は割れ物を抱くように抱き包み、彼の震える肩を撫でる。  若かったのだから仕方がない。過ぎた事。慰めの言葉が頭に浮かんでは、形にならずに消えていく。  言うだけなら何とだって言える。けれども、今の戸隠さんに、そして愛していたのに抱かないままに別れたという点では同じような境遇の俺自身に、必要なことは陳腐な慰めの言葉じゃない。 「もっと、優しくしてあげればよかった」  戸隠さんの声が涙に震える。  若いときは、目に見えている毎日がずっと続いていくと信じていた。永遠を信じて、自分の感情のままに、全てをなおざりにしてきた。ある日突然目の前から消えてしまうなんて、その別れに心を残すなんて、今生の別れというものがどういうものかなんて、思いもよらかなかった。  今ならわかる。全ての事は一期一会なんだと。だから、今を大切にしなきゃいけないんだと。 「じゃあ俺には、もっと優しくして、美弥さん」  俺は戸隠さんの頬を両手で包み込んで上げさせる。泣き顔も愛おしくて、ちゅっとキスをする。一瞬、戸隠さんは鳩豆顔になったけれども、すぐに破願して泣き笑いの顔で俺を抱きしめた。 「好きだよ、湊人君。大好き」 「それ嬉しいからいつも言って。失ってから後悔しないように、飽きる程俺を愛して。俺も、大好きだって、ずっと言い続けるから」  汗に濡れた髪に、涙の痕が残る頬に、いい匂いのする項に、額に、鼻に、唇に、俺は何度もキスを落としていく。耳の後ろや、胸元にキスマークをつける頃には、ゆるゆると勃ちあがった戸隠さんの中心が壊れた蛇口のように透明の雫をにじませる。俺は萎えない自分のムスコを擦り付けて次のラウンドを誘った。 「イイ?」 「いいよ。僕、性欲強いからね。覚悟してね」 「望むところです。からっからになるまで俺を愛してくださいね」  お互いにくすくすと笑いあって、小鳥が戯れるようなキスを交わし、俺達は再びシーツの海の中へ深く沈んでいくのだった。

ともだちにシェアしよう!