2 / 50

第2話

 大学を卒業して、半年ほど経った十月。お互い慣れない仕事で忙しく月に一、二回会える程度だった。  会っても家で食事をして一回だけのセックスをして終電までに大翔は実家に帰る。 その決まったルーティンは終わりのないトンネルのなかを通っているように新鮮味がなかった。  付き合って四年。デートの場所も行き尽くし、食べるものも食べ、イベント事も何度も繰り返している。  マンネリという言葉が浮かぶ。同性同士はこの先に結婚や出産などのライフイベントが発生しない。  でも裏を返せば安定感がある。  このまま穏やかに年を重ねていけたらいいと願う毎日だった。  週末にいつものように来た大翔は休みなのに珍しくスーツを着ていた。顔も青白く、生気がない。玄関に立ち尽くしたまま部屋に入ろうとせず虚ろな目をしていた。  「別れよう」  「え?」  「別れて欲しい」  もう一度言い聞かせるように繰り返された。大翔の言葉が信じられず、鼓膜の奥で不協和音を繰り返している。  「なんで」  どうにか絞り出した声は自分でも笑えるくらい震えていた。  大翔は目をぎゅっと瞑ってから、ゆっくりと見下ろされた。瞳の奥に隠れている揺らぎを探そうと必死に首を伸ばすがふいと逸らされてしまう。  「別れて欲しい」  「……わかった」  ついにきてしまったのだろう。  心の奥底では信じ切れていなかった。大翔はノーマルだ。それを変えることはできない。  男より柔らかくて甘い匂いがする女の方がいいに決まっている。  弾かれたように顔をあげた大翔はなぜか顔をくしゃくしゃにさせて、泣きそうな顔をしている。    (泣きたいのはこっちだよ)  心が砕けていく。大翔との思い出にヒビがはいり涙が出た。  シューズボックスの上にお揃いのイルカのキーホルダーが付いた合鍵を置いて大翔は出て行ってしまった。

ともだちにシェアしよう!