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第7話
飲み会は九時にはお開きとなり、駅でこっそりと待ち合わせをして棗の家へ向かった。途中のコンビニで酒やつまみも買っている間も、棗の表情がマシュマロのように柔らかい。恋人にしか見せないのだろう甘さに酔ってしまいそうだ。
棗の家は築年数の浅い四階建てのアパートだ。どこかサイコロを彷彿とさせるデザインで部屋も観葉植物やオブジェなど生活に不必要なものがない。そのせいか神経質さが浮き彫りになっている。
「このシャツ、本当に好きなんですね」
あまり人の部屋を見るのはよくないとわかっているが、開きっぱなしのクローゼットにかかっているシャツが気になった。
アイロンがぴしっとかけられ、神経質そうに並んでいる。
白やレモンイエロー、淡いブルー、黒と見覚えのあるものばかりだ。
「一度気に入ったものは着続けるタイプなんだ。スラックスもそうだよ」
「こだわり強いんですね」
「新しいものに手を出すのに勇気がないだけ。だから僕はつまらない人間だよ」
台所にいた棗は缶ビールを手にリビングに戻ってきた。その表情はどこか諦めたような顔をしている。棗なりに取捨選択をして限界まで削った形で生活しているように感じた。
でも一度手にしたものは最後まで大切にしてくれるような温かみがある。
新しいものや流行りものが好きな自分とは大違いだ。
(そういうところが大翔に似ている)
大翔の薬指にはまった指輪を思い出し、頭を振った。
「棗先生……」
缶ビールを受け取るときに手を重ねて熱っぽい視線を向けると棗の目元が朱色に変わる。
ビール缶を床に落とし、腕を引っ張られてベッドに押し倒された。
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