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第14話
昔から一人でいるのが怖かった。母親が仕事、姉は部活で夜遅く、家には誰にもいない。首からぶら下げる鍵だけが仲間のように思えた。
一人の時間を一秒でも短くするため、派手なグループに所属して夜遅くまで遊び歩いて寂しさを紛らわしていた。
だが中学生のとき、自然と目を追うクラスメイトがいた。教室のすみでいつも本を読んでいる物静かな男。部活も入っておらず、友だちもいないタイプで集団生活のなかで異彩を放っていた。
誰にも媚びない姿が新鮮に映る。
一人でいて寂しくないのだろうか、誰かと話したくはならないのだろうか。その男を盗み見るたびに疑問が湧いた。
でも彼は地蔵のように席に座り、いつも小難しい本を読んでは時折目を細めて楽しそうにしていた。
周りから孤立していようとお構いなしに自分の世界を大切にしている姿に恋をした。
小学生のときに自分は男が好きなゲイだとは自覚していたのであっさりと受け入れられた。でもだからといっておおっびらにできるものでもない。
こんな小さな箱庭で告白なんて博打をするつもりはなく、ただこっそり眺めているだけの恋だった。
『煌っていつも寺内のこと見てるよな』
グループの連中の言葉に鼓動が止まる。ニヤニヤとした顔からはからかいの意味合いが含まれているのだろう。
グループのなかでも序列はあり、一番上のもの、二番手、手下と最下層はいじられキャラに分類されていた。いままさに自分はいじられキャラに落とすかふるいにかけられている。
(ここで答えを間違えるわけにはいかない)
冷や汗が背中を伝う感覚がはっきりわかる。汗が腰に落ちたところまできて、ようやく彼に視線を向けた。相変わらず本を読んでいるが会話は聞こえているだろう。
恋か孤独がどちらかを天秤にかけるまでもなく、答えは決まっていた。
『ボッチで可哀想な奴だと思ってただけ』
なんて酷い言葉だ。でも言ってしまったらもう引き返せない。
案の定、グループの連中は大笑いをして『ほら、ボッチくんなにか一言ある?』と訊くと彼は無言で教室を出て行き、それから卒業するまで一度も学校に来なかった。
保身のために大切な人を傷つけてしまった。こんなことまでして守りたかったものってなんだろう。
彼を傷つけてまで手に入れた立場は無意味なものに思え、次第に人付き合いを最低限にする術を憶えた。
いつも笑顔を絶やさず、相手の意見に同調して自分の意見は言わない。
そうすると面白いことにすべてがうまく回る。嫌なことやりたくないことも笑顔でいれば相手が勝手に解釈してくれる。都合のいい言葉を吐けばそれだけで喜んでもらえた。
まるでホストになった気分で本音は見せず、愛想だけをばらまいていた。
大学進学を機に上京し、都会の色にはすぐに染まれた。
オールで居酒屋とカラオケをはしごして、女をナンパして、騒いで笑って。
彼にした酷い言葉を一時でも忘れさせてくれる友人たちとの無益な時間にずぶずぶに浸っていた。
そんなときに出会ったのが大翔だ。
母親をとても大切にしている愛情深い男。煌の寂しさにも気づいてくれ、できる限り一緒に過ごしてくれた。
それなのにどうしてすぱっと切られてしまったのだろう。
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