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第17話
「あれって奥さんだよね?」
店の前に戻ると列を並んでいた女たちが一斉にこちらを見ている。奥さん、と言っていた。まさかと思い横を見ると一際美人の女性とすれ違った。
毛先をワンカールにさせた栗色の髪は太陽の光を浴びて艶が増している。透き通る肌と隙のないメイクがきっちり施され、ボディラインに沿ったミニ丈の黒いワンピースが色っぽい。
集団にいても一際目立つ。芸能人のようにオーラがあり、誰もが振り返らせてしまう魅力があった。
(すげぇ美人)
顔にはそこそこ自信があったが、とてもじゃないが太刀打ちできない。それに女というアドバンテージが向こうにある分、絶対に勝てないとわかると不思議と嫉妬がしなかった。
圧倒的な敗北を前に感情が欠落してしまったようだ。
「煌くん」
前を向くと夕日を背にした棗が立っていた。どうしてここにいるのか、と問う前に棗の裾を掴んだ。
「帰ろうか」
「はい」
大翔への思いは完全に打ちのめされた。もう好きでいても報われないし無駄だと嫌になるほど痛感した。
「どうして俺がここにいるってわかったんですか」
「偶然だよ。ここのパンが美味しいって生徒が話してたから近所だから行こうと思って」
「そうですか」
嘘を吐いていた手前気まずい。大翔と一緒にいるところは見られなかっただろうが、会いに来たと思われるだろう。
「それ買えたんだ」
持っていた紙袋を指さされて曖昧に頷く。
「僕も一緒に食べてもいい?」
「怒らないんですか」
「なにを?」
棗の笑顔には曇りがない。雨上がりの澄んだ青空のように清々しく、あまりの清潔さにこっちが怯んでしまいたくなる。
「……なんでもないです」
「僕はきみを信じてるから」
「はい」
その信頼が重く肩にのしかかった。
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