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第18話
用もないのに購買部の前を通り、大翔を一目見るのが日課になっている。
よれよれのシャツに色褪せたて紺か黒か判別のつかないエプロンでも大翔のよさを際立てている。
女生徒たちのアピールは続いているが、安定の朴念仁は気づいている様子はなさそうだ。
そりゃそうだ。あれだけ美人な奥さんがいたら、高校生なんて眼中にはないだろう。
空の番重をバンに載せている大翔を職員室から眺めた。購買部のおばちゃんとも打ち解けているのか楽しそうな笑い声が聞こえてくる。昔から愛想がないのに、なぜか人を集める魅力があった。
形のいいつむじをじっと目で追っているとコーヒーの香ばしい匂いに横を見るとカップを持った棗が窓に寄りかかっていた。
「また見てる」
「生徒たちがちょっかいださないか気になってるんです」
「もう大人なんだから相手にしないでしょ」
「……ですよね」
そんなの建前だ。棗も薄々わかっているのだろう。付き合っているのに昔の男を忘れられない煌に腹を立てているのかもしれない。
信じている、と棗は言ってくれた。自分はそれに応えられているだろうか。肩にのったままの重石がどんどん重たくなっていく。
窓から視線を外して職員室を見渡すと誰もいなかった。昼休みでも次の授業の準備をしていたりと教師は忙しい。
「そろそろ教室戻らないと」
職員室を出ようとすると棗に腕を取られ、キスをされた。
力のかぎり突き飛ばすと棗は顔を歪め、眼鏡の奥の瞳は濁ったビー玉のように暗い。
「なんで拒絶するの?」
「ここ学校ですよ。誰かに見られたら」
職員室は誰もいなかったと思い出した。だがどこからか視線を感じる。窓に顔を向けるとバンに乗り込もうとしている大翔と目が合った。
(もしかして見られた?)
浮気現場を見られたような罪悪感が押し寄せてくる。実際は棗が恋人なのだから浮気ではない。それなのになぜこんなに胸が痛いのだろう。
「購買パンさんに見せつけようよ。煌くんがいま誰のものか」
「……やめっ」
再び棗にキスをされた。今度は長く腔内に舌を入れてくる。大翔の視線がひしひしと感じ、見られているという罪悪感が興奮に姿を変えた。
歯列をなぞられ、舌を吸う甘い感触に腰が甘く痺れる。悦楽の渦に取り込んで逃さないとばかりに追い詰められていく。
外でモーター音が聞こえた。大翔が帰っていったのだろう。それを確認するだけの余力がない。
チャイムが鳴るまでキスの甘さに酔いしれていた。
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