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第20話
ネットで大翔の名前を検索するとどんどん記事が出てきた。
地元でも無名な公立高校に入学し、一年生ながらレギュラーを獲得。正捕手、四番でホームランを連発していたらしい。
どんな悪送球でも絶対に後ろに逸らさない完璧な捕球力と洞察力でストライクを量産。かなり有望視をされていた選手だったそうだ。
坊主頭の大翔がボールをまっすぐに見つめている横顔やホームランを放つ後ろ姿はとてもかっこよかった。
(どうしてこんなすごい選手だったのに野球辞めちゃったんだろう)
これだけ周りから期待されて望まれていたのに一切の後悔を見せずに辞められるだろうか。それとも辞めなければならない理由があったのだろうか。
訊いてみたいが、それは踏み込み過ぎてしまっている。友人とも呼べない大翔との距離感は曖昧で難しい。
パソコンを閉じて校庭へ向かうと野球部がいつもより大きな声を出して練習に励んでいた。顧問から大翔の話を聞いたらしく「甲子園出場のコーチが来るぞ」と気合いが入っているようだ。
それがいつも来ている購買パンだと知ったときはあからさまに落ち込んでいた。だが大翔のバッティングやボールの投げ方一つ一つが惹きつけるものがあったらしい。すぐに手のひらを返し、忠犬のように大翔の指導に従っている。
「次、外野!」
「はいっ!」
大翔がボールを打って守備練習をしている。生徒たちの目はキラキラとして楽しそうだった。
(なにか差し入れでも買って行くか)
頑張っている姿ほど見ていて気持ちいいものはない。
高校の近くに肉屋があり、そこのコロッケが安くて美味しい。部員分とマネージャー以外にも少し多めに買って行った。少々財布が痛いが、野球のルールすらまともにわからないからこれくらいしかできない。
「これ差し入れ。みんなで食べてね」
「ありがとうございます!」
「そろそろ暗くなってきたし、あと三十分で終わるように部長にも伝えて」
「わかりました」
マネージャーに渡すとちょうど休憩時間だったようで部員がわらわらと集まってきて、それぞれお礼を言ってくれた。そういう素直な一面がまだ子どもらしく、可愛いなと目尻を下げる。
「少し多めに買ったから楠川も食べてよ」
「サンキュー」
部員たちに混ざってコロッケを食べている大翔はただの野球好きの少年だ。もうみんなとも打ち解けているらしく、気軽に話している様子が羨ましい。
見た目が派手のせいか(これでも髪を黒くしたり、地味なジャージを着ている)男子生徒たちからよく思われていない。遊び人だった頃の空気感が抜けていないのだろう。
教師と生徒という立場上、必要以上に仲良くする必要はない。けれど向こうから線を引かれてしまうと近づけばいいのか、この距離感を保ったままでいればいいのかわからなくなる。
「じゃあ職員室にいるから終わったら部室の鍵を持ってきてね」
「はい」
部長が返事をしてくれたが、その視線は大翔に釘付けだ。野球の話に盛り上がっているのだろう。
自分とは違うあからさまな態度にへこみながら職員室に戻った。
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