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第22話
一年が経ち、今年度から三年生を担当することになった。
受験をする年であり、成人して庇護される子どもではなくなる年代。親の了解なく結婚もできて、携帯電話の契約もできる。良くも悪くも人生の分岐点を受け持つプレッシャーは日々重くのしかかった。
やっと桜の木が青い葉に変わったのに慣れた頃、オープンキャンパスのお知らせや大学説明会のパンフレットが山のように届く。放課後、それを地域や学部ごとに分け、生徒たちが見つけやすいようにファイリングして並べていると棗が近づいてきた。
「パンフレットだいぶ届いたね」
「毎日届くので仕分けが大変です」
「こんなに丁寧にやらなくていいんだよ。なんとなく学部ごとに分けておけば」
「でも生徒たちの可能性を潰したくないんです」
たかがパンフレットの仕分けでも、生徒たちの運命を握る切符だと思うとおいそれと適当には扱いたくない。一人でも多くの生徒の目に止まり、自分の未来をしっかり考えて欲しい。
「……あまり無理はしないでね」
「はい」
棗はそう言い残すと進路指導室を出て行った。言葉の棘がひっつきむしのようにちくちくと残る。
いまから肩ひじ張っていたら約一年続く受験戦争に疲れてしまうと棗から注意を受けていた。
棗は生徒とは必要以上に近づかない。
でもかといって無碍にしているわけではなく、相談を持ちかければちゃんと答えるし、問題にはとことん向き合ってくれる。
たぶんこのやり方が教師としてあるべき距離感なのだろう。
(でもなんかそんなの嫌なんだよな)
一人ずつ誠心誠意向き合いたい。進路に悩んでいるなら力になりたいし、そばで支えてあげたい。けれど一クラス三十人もいるのに各々に向き合っていたら身が持たないのも事実。
そういうとき自分は不器用だなと痛感する。
ファイリングを済ませたパンフレットを棚に並べ進路指導室を出た。職員室へ戻る途中に校庭で野球部が練習している様子が見える。新一年生も入ってきて、かなりの大所帯だ。
そのなかに大翔の姿がある。一際大柄の男は遠くにいてもよく目立つ。
真剣な顔で部員たちに指導してくれている。時折笑い声が聞こえるのはなにか冗談でも言い合っているのだろうか。
大翔は昔から周りに人が集まるタイプだった。みんなが大翔を慕い、話題の中心をかっさらっていた。
きっと教師になったらいい先生になっただろう。この一年間で信頼感は自分より上に違いない。こんな風にちまちまパンフレットを集めて、ファイリングなんかしなくても直接相談を持ちかけられスマートに解決するのだろう。
(どうせ俺は客寄せパンダだよ)
容姿のよさで人を集めていた自分と違い、大翔のような裏表のない性格の方が大衆に好まれている。わかっている、そんなこと。
だから容姿に頼らず誠心誠意生徒たちと向き合いたいのだ。でもそれが伝わっているのかわからない。
部員たちのかけ声を聞きながらしばらくその風景を眺めていた。
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