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第25話

 「ジャージは今度返すわ」  「いいよ。それもう着ないから処分して」  「わかった」  「じゃあな」  白いバンが滑らかに動き出し、角を曲がるまで見送った。雨は止む気配を見せず、買い出しに行くからと大翔に家まで送ってもらった。  袖が隠れるほどの大きいジャージを意味もなく引っ張った。大翔の匂いがする。シャンプーが違ってもここだけは変わらないらしい。  家の鍵を差し込むと開いている。まさか、と扉を大きく開くとリビングから光が漏れていた。  合鍵を持っている人は一人しかいない。  「棗、先生?」  恐る恐る覗くと珍しくテレビをつけてソファに座っている棗がいた。後ろ姿しかわからないが、その背中から滲み出ている怒りに喉が絞めけられるように苦しい。  は、と短く息を吐いた。  「急に雨降ってきたから、傘持ってないだろうなと思って迎えに行ったんだ」  テレビから流れる芸人の笑い声が虚しく響く。テレビの音の方が大きいのに棗の声は吐息すら聞こえる。  「ねぇ、彼とは別れたんだよね? なんで一緒に歩いてたの?」  棗はこちらを見ない。声も普段通り穏やかだ。けれど彼一切こちらを見ない頑なさにごくりと唾を飲み込んだ。  「ちょうど楠川が来るタイミングで雨が降って、部活が中止になったんです」  「それで雨に濡れたから元彼の家で着替えさせてもらったと?」  「……そうです」  「そんなの信じられると思う?」  やっとこちらを見た棗の瞳はコーティングが剥がれた車のようにくすんでいる。そのなにも映さない瞳は怖い。残虐さを孕んでいてこれからなにをされるのだろうと考えるのすら嫌だ。いますぐにでも逃げ出したい。  つい逃げ腰になると棗は目を細めて、じっとこちらを見返している。 逸らすことも許されない。まるで蛇に睨まれた蛙だ。二人だけの世界になってしまったかのようにテレビの音も聞こえない。  「本当になにもないです」  「じゃあそのジャージはなに?」  「楠川に貸してもらっただけで」  「脱いで。裸になって尻をこっちに向けて」  棗がやろうとしていることがわかり、全身が震えた。恐怖で後退るとソファから立ち上がった棗に腕を掴まれてしまう。  「なにもないならできるよね」  「そんなことしなくても俺は棗先生を裏切るようなことは」  「いいから証拠を見せてよ」  力が込められた腕がじりじりと痛む。ジャージの生地が素肌に食い込んだ。  「ほら、早く」  「やめてください!」  壁に押さえつけられて身動きがとれなくない。棗は力任せにジャージを破った。  手で引き裂かれ、ただの布切れになっていくのを呆然と見た。  まるで大翔への未練を断ち切らせるように棗は何度も何度も破っている。  素肌が現れると棗は眉間の皺を深くさせた。  「こんな下着見たことない」  「これは新品をもらっただけで」  「どうたが。ほら、尻向けて」  「やっ、やだ。なんでこんな」  「僕を騙すからだよ」  騙してなんかいないと首を振った。裏切るようなことはなにもしていない。それなのに大翔への断ち切れなかった想いが棗への罪悪感となっていたのは事実だ。  涙が込み上げてきて頰を伝った。泣いても許してくれない。そんな甘い男ではないのだと眼鏡の奥の瞳がきらりと光る。  これ以上抵抗したらなにをされるかわからない。  震える手で下着を脱ぎ、壁に手を添えて尻を向けると双丘を引っ張られ蕾を曝け出された。  「見た目は使ってなさそうだね。でも中は触ってみないと」  「せめてローション使って」  「だめ。これはお仕置きなんだから」  なんのぬめりもなしに指を入れられた。皮膚を引きつるような痛みに涙をこぼすとぱんと尻を叩かれた。  「うっあ……痛い。やめて」  「これじゃよくわからないな」  「嫌だ! ぐっ、うぁ……」  奥まで一気に貫かれ痛みが全身に回る。だが何度も性交を繰り返した蕾はわずかに快楽も混じり始める。  「中がすごいうねってる。これは使ったね」  「だからしてないって」  「どうだかな。きみのそういうところは信用できない」  どういう意味だ。反駁したいのにうめき声しか漏らせない。痛くて苦しくて涙が止まらなかった。  蕾から血が出ているのか太ももに垂れてくる感触がある。当分まともに座れそうもない。  でも身体は勝手に快楽を求めるように腰を揺らして痛みを和らげようとしている。  「ほら、自分でイイトコ当てようとしてるでしょ」  「ちがっ……もうやめて」  「淫乱」  指が抜かれ、代わりに棗の性器に貫かれた。もう痛みしかない。  「やだ、も……ごめんなさい」  律動に合わせるように尻を何度も叩かれた。皮膚が痛いのか中が痛いのかもうわからない。  ただ全身を引き裂かれるような痛みに耐えるしかなかった。

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