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第39話

 学校へ行くとき棗に会ったらどうしようかと身構えたが、どうやら父親が倒れたらしく今週いっぱいは休むらしい。  顔を見ずにほっとしたが、問題を先延ばしにしてしまったような気がする。  書類を見ながら大翔が作ってくれた弁当を食べていると「彼女の手作り?」と持ちクラスの女生徒が覗かれた。  「ビックリした。声かけろよ」  「職員室に入る前に行ったよ。煌ちゃん先生が気づいてないだけ」  「そうなのか?」  周りの教師を見るとベテランの先生がうんと頷いた。  「悪い。なにか用?」  「これ授業のプリント集めてって言ってたでしょ」  「あー忘れてた。あんがと」  授業で小テストをやったが、合格組はそこそこできているが受験組はほぼ白紙で出している。受験勉強に集中しているから授業なんて真面目に聞いちゃいない。    「で、それ彼女の手作り?」  「まさか。自分で作った」  「嘘だ。万年コンビニ弁当の煌ちゃんがいまさら弁当作るわけないじゃん」  やはり女はいくつになっても鋭い生き物だ。「別にどうでもいいだろ」と返すと女生徒は笑った。  ピコンと通知音が鳴り、女生徒がスマホを確認すると隠し切れない笑みがこぼれている。  「ねぇ、見て。うちの彼氏他校なんだけど、いま外に出てるみたい」  「なんだこれ?」  見せられた画面はどこかの地図と青い丸がうろうろと動いる画面だ。青い丸はしばらく動いていたが、コンビニの上で止まった。  「恋人アプリ。リアルタイムで相手がどこにいるかわかるの」  「えっ、きもっ!」  「普通だよ。友だちともやるし」  「……感覚がわからんな」  そんなにお互いの居場所を知りたいものなのだろうか。一人でいるときくらい誰にも干渉されずにゆっくり過ごしたい自分にとって共感できない考え方だ。  「でも別れたあとが面倒なんだよね。アンインストールしないでそのままにされちゃうと、こっちの居場所がずっとわかっちゃうし」  「それは面倒くさいな」  「ま、いっくんとは別れるつもりないけどね。じゃあプリント渡したから」  女生徒は颯爽と去っていき、後ろ姿を見送った。  「恋人アプリねぇ」  相手の居場所を知ってどうしたいのだろうか。気になるなら直接電話なりメッセージを送れば済む話ではないか。  でも相手が嘘を吐いている場合は通用しないのか。  いまの子はいまの子らしい愛し方があるのだろう。  そう思いながら大翔の弁当箱を見下ろした。  (まだ昼休みだから購買部にいるよな)  居場所がわかる。確かにそれだけで安心するかもしれない。  近くに大翔がいると思うと確かにやる気が出てくる。よーしと背伸びするとベテランの先生に「静かにしてください」と怒られてしまった。

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