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第45話

 棗のことは校内で話題になった。  実名と顔写真が公開され、テレビニュースやネットニュースで連日取り上げられる事態だ。  でもすでに高校を退職していたことが功をなし、被害者を特定されずに済み、ほっと胸を撫で下ろした。  弁護士を通して二度と煌とは会わないこと、接触しようとしないことの念書をもらい、一年間の懲役が言い渡されたとだけ聞いた。  住んでいた部屋は盗聴器や監視カメラが付けられていたらしく、警察が全部押収してくれたが怖い。棗が檻のなかにいるとわかっても、気持ち悪くて住めない。  すぐにでも引っ越しをしたいがホテル暮らしが延長してしまったせいで貯金も底を尽いた。  実家には頼れないと頭を悩ませていると大翔に「うちに来なよ」と言ってもらえ、金が貯まるまで厄介になることにした。  部屋のものはすべて引き払い、仕事道具とわずかな服を持って大翔の家で暮らし始めたのが新年度も始まった四月。  大翔は塾講師をしながら来年の教員採用試験を目指し、煌は二年生を担当することになった。  そして穏やかで奇妙な二人の暮らしがゆっくりとスタートしている。  大翔は夜遅くに帰宅することが増え、時間のすれ違いが増えた。けれど必ず夕飯を作ってくれ、朝ごはんは毎日一緒に食べることを最初に決めた。  帰宅するとテーブルの上には南蛮漬けとかぼちゃサラダ、具だくさんの味噌汁が置いてあり、空腹を刺激する匂いを漂わせている。  「……新婚みたい」  変な妄想が広がり、頬の熱が上がった。仕事から帰ってくるとご飯が用意され、部屋も清潔に保たれている。こんな贅沢な暮らしをしても許されるのかと不安になってしまう。  せめて風呂掃除をしようと洗面所に向かうがもうすでにピカピカに磨かれたあとで拍子抜けしてしまった。  (俺に負担かけないようにしているのか)  なにもさせてもらえないのは歯痒いが、愛情の裏返しなのだろうと思うと嬉しさもあった。  大翔は変わろうとしている。  以前のような失敗はしたくないのだとテーブルの汚れ一つないことからも伺えられる。  その想いに向き合いたい。  大翔とこれから先、生きていくと決めるにはどうしても知ってもらいたいことがあった。

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