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第49話

 退院してすぐ職場に復帰した。授業は座りながらやらせてもらい、野球部の副顧問も一先ず代理の先生にやってもらうことになった。  そうやって周りに気遣われながらの再スタートだったがなんとかうまくやれていると思う。  六月にパートナーシップ宣誓制度も提出し、晴れて大翔とパートナーとなった。これで病院の付き添いもできるし、部屋を借りたりもできる。  学校に報告すると驚かれたが受け入れてもらえた。生徒たちにもすぐ噂が回り、避けられたり嫌われたりするだろうと思ったが、同性愛者の子から相談を受けることが増えた。  同じような悩みを抱えていたので気持ちがわかる。自分なりのやり方で生徒との距離を測れるようになっている。  大翔との関係はなにも変わっていないのに紙一枚分の重みが加わるだけで世界が変わる。だからいつまでもグズグズしていられない。  よし、と覚悟を決めて大翔の部屋の扉をノックした。  「ちょっといい?」  「どうした?」  勉強をしていたらしく机の上には参考書やテキストが並んでいる。そちらをちらりと見て、部屋に入った。  「今日病院行ったらもう来なくていいよだって」  「それはよかったな」  「だからさ……その」  もじもじと指を弄んでいると大翔がふっと鼻で笑った。  「なんで笑うのさ」  「悪い。つい可愛くて」  「もうアラサーだぞ」  「煌はずっと可愛いよ」  恥ずかしげもなく言われるセリフにこちらの方が参ってしまう。耳が熱くなり、心臓はばくばくと脈打っている。  でもこんな初々しいのは自分らしくない。  大翔のシャツを掴んで唇を奪った。触れるだけのつもりだったのに、大翔に後頭部を押さえつけられ逃げられなくなってしまった。  全身がざわざわする。  腕の置き場も顔の背ける角度も完璧に身体が憶えていた。  肺いっぱいに大翔の匂いを吸い込むと心が満たされていく。自分でも気づかないくらい大翔を求めていたのだと知った。    厚ぼったい舌を招き入れて自分から吸ってみた。ぐちゅぐちゅと音をたてて興奮を煽っているとシャツの隙間からするりと手が入ってくる。  腰骨の出っ張ったところから臍を辿る指の動きは緩やかだ。そのじっくりと堪能するかのような仕草に今度は自分が煽られてしまう。  (そこじゃない、もっと下)  腰を揺らして誘導しても大翔の指の動きは変わらない。  触れて欲しいところに触ってもらえないだけで余計に意識するのはなぜだろうか。  猛った下半身を押しつけ、キスを深くさせた。布越しでもどかしい刺激に煽られて先に音を上げてしまう。これでは大翔の術中にはまってしまったも同然。案の定、大翔は意地の悪い笑みを浮かべている。  ベッドに押し倒されてシャツをはぎ取られた。室内の冷たさにひやりと肩が竦む。でもそれは一瞬だけですぐに大翔の熱で温められる。  乳首を舐められて歓喜の声が漏れた。乳輪を辿り、尖りを甘く噛まれると大袈裟に身体が跳ねる。もう何年もしていないのに大翔は自分の好きな箇所を全部憶えてくれている。  噛むときの力加減や焦らすさじ加減まで一つ残らず酔いさせられた。  「んんぅ……あっ」  「声、可愛い」  「萎える?」  「いつも声我慢してたよな」  「……キモイだろ。男の声なんて」  「いっぱい聞かせて欲しい」  「でも」  「頼むよ」  そう言われると困ってしまう。羞恥心もあるがなにより大翔に幻滅されたくない。  でも前に進むと決めたのだ。もう大翔とはパートナーで家族だ。余すところなく全部受け入れたいし受け入れて欲しい。  小さく頷くと愛撫が再開された。  乳首を吸われ、反対の手が下へと降りていく。もう待ちきれないとばかりに性器は固く張りつめていた。  大きい手に包まれると歓喜で下肢が震える。乱暴にズボンと下着を脱がされることすら興奮した。  「大翔も脱げよ」  「そうだな」  裸になって抱きしめると肌のおうとつや関節の位置、体温もなにもかもがすべてピタリとはまる。  もう一度大翔に触れてしまって怖くもある。何年もかけて忘れようとしたはずなのになにも手放していないことを痛感させられた。  別れたときの切なさも再会したときの胸の高鳴りも、全部が自分という人間の一部になっていた。  「大翔、好きだ」  「俺も好き」  キスをしてから大翔の頭が下におりていく。意図を察して「待って」と頭を掴んだ。  「俺もしたい」  「いいよ」  身体の位置を変えて、大翔の眼前に性器を晒した。目の前の猛った雄にむしゃぶりつくと同じように大翔に舐められる。  喉奥まで飲み込んでもまだ入りきらない。歯を当てないように必死に舐めた。  根本から舌で辿っていると自分の性器も同じことをされている。ぱくりと口に含むとまた真似された。  「真似すんなよ」  「煌と同じことしたくて」  「莫迦じゃん」  悪態を吐きながらも性器が張りつめているのがわかる。  お互い限界が近く、話す余裕もない。夢中になって舐めているとほぼ同時に果てた。  「ふっ……んん、あっ」  ごくりと飲み込むと青臭いものが喉を過ぎていく。かなり濃い。しばらく抜いてなかったんだなと思うとなぜか優越感に浸れた。  「足広げて」  大翔は精液を手のひらに吐き出して指にまとわりつかせ、蕾に触れてきた。 足を広げて誘うように収縮させると大翔は喉を鳴らした。  「見られてるだけで興奮する」  「煽るな」  「大翔、大翔」  何度も名前を呼んだ。進入した指は肉壁を押し広げながら奥へと進み、ぴたりとある箇所で止まった。そこを押されるだけでビリっとした電流が流れる。  何度も繰り返し押されると果てたはずの性器からまた先走りがこぼれた。  我慢できないと泣いて懇願していても、大翔は生真面目に中を解してくれる。  精液だけでは足らず、舐められるとたまらなく気持ちいい。堪えきれず嬌声を何度もあげた。  「もういいか」  「早く……大翔」  押し倒されて上に大翔が覆いかぶさってくる。  片膝を大翔の肩に乗せ、腰を進められた。みちみちと中を押し広げる感覚に眉が寄ってしまう。  「キツイな」  「久しぶりだから」  「ゆっくりする」  「いいよ。奥まで一気に」  「でも」  ぐっと腰を押しつけた。最初は痛いかもしれない。でもそのあとに待ち受けている快楽をこの身体は知っている。もう一秒だって我慢できない。  一度唇を引き結んだあと「痛かったら言えよ」と言われて、一気に貫かれた。  大翔を受け入れられて歓喜の声をあげた。わずかな快楽に混じり痛みと苦しみを連れてくる。内臓が迫り上がってくる圧迫感に唇を噛みしめるとさらに奥へと挿入ってきた。  やっぱり痛い。でも焦がれていた感触に涙がとめどなく溢れてきた。  「平気か?」  「うん」  了承を得たとばかりに大翔は無遠慮に律動をした。ばちんばちんと肌がぶつかり合う音に鼓膜も犯される。  腰を掴まれてどんどん奥が暴かれていく。自分の好きな箇所を的確に憶えていて、そこを突かれると性器はびゅっと先走りを飛ばした。  痛みの方が優勢だったのにいつのまにか立場が逆転している。電流みたいな快楽が突かれるたびにビリビリと流れてきた。  汗ばんだ背中を引き寄せてキスを強請ると唇を貪られた。どこもかしこも大翔と一つになれたような満足感に酔いしれる。パズルのピースのように心まで一つになれた。  待ち焦がれていた悦楽に限界が訪れようとしている。無意味に頭を振ってどうにか抑え込もうとしても大翔がそれを許してくれない。  「あっ、あぁ……まだ、やっ」  まだ終わりたくない。これだけじゃ全然足りない。  でも二度目の射精感を抗えず放出させた。全身の力が抜けてベッドに深く沈む。  (終わっちゃった)  大翔とのセックスは一回で終わる。まだ身体の熱は冷めるどころかどんどん上がっていくのにこれを鎮めなければならない。  中に入ったままの性器を抜こうとすると大翔に腕を引っ張られた。上に跨るような体勢はさっきよりも深く交わる。  「んんっ……大翔?」  「俺まだイってないから」  「でもいつも一回で終わってただろ」  「あれは煌の身体の負担を考えてやめてたんだよ」  「なんだ、てっきり男の身体が嫌なのかと」  「そんなわけあるか。一晩中セックスしてたいわ」  拗ねたように唇を尖らせる大翔がおかしかった。このこともちゃんと話し合えばよかった。  首に腕を回して汗ばんだ額を擦りつけた。  「俺も一晩中してたい」  「言ったな」  舌なめずりをした大翔に腰を掴まれ、がんと下から突かれた。  脳に快楽が直接叩き込まれ、一瞬視界が真っ白になった。  大翔の律動に合わせる余裕もなく、快楽に飲まれながら何度も大翔の名前を呼んだ。

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