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第8話
夏に出会った泡沫の恋は、俺に深い深い傷を残した……
それは三年経った今も消えはしない───
*
三年前の夏に期間限定で出会った人───青葉亮介
俺は芸能人のその人を好きになった。
だけど一般人の俺とどうこうなるわけもなく、結局、俺達は何事もなかったように日常の暮らしに戻った。
だけど、あの日彼が口にした……
“ この気持ちが本気だったら、いつかその意味がわかるよ”
その言葉の意味を俺はずっと考えている。
何かを見透かしたようなその言葉は当時の俺には理解出来ず、自分なりに出した答えが単なる彼の気まぐれに振りわまされたのだと…そう思った。
いや、違う…そう無理矢理思わないと立ち直れなかったから。
真っ白な俺の心を夏空のようなスカイブルーに染め上げたと思ったら、深い海のようなダークブルーに塗り替えられ、日常に戻った後の俺の心はずっと深い海の底にいるみたいだった。
その後、彼はハリウッド映画に出演するとかで日本を離れたらしい。
そのまま向こうで演技の勉強をするって聞いたけど、全てメディアからの情報でそれから日本に戻って来たかは知らない。
俺は、あれから日常に戻りそれなりに大学生活を送り大学4年になった。
そして今日はその彼と初めて会った日。
約束なんかしたわけじゃないのに俺は彼と出会った南の離島に再び来ていた。
夕日に染まる海を眺めながら砂浜に腰掛けそんな三年前の事を思い出す。
「会えるわけないよな…やっぱ……」
そうぽつりと呟くと波の音にその声は掻き消される、そしてまた同じ事を呟く。
そんな事を繰り返し暫く海を眺めていると、波の音に混ざりふいに耳を疑うような声が微かに聞こえた。
「………………ちゃ……ん」
え……………
「…………な、な……ちゃ……ん」
振り向くとその人は俺の所へゆっくりと歩いてきて、
そして懐かしいその声で懐かしいその呼び方で俺を呼んだ。
「………ななちゃん、久しぶり」
「あ、あの…………ど、どうして……」
ありえない状況に言葉が上手く出てこない。
「三年前ななちゃんに言った答えを聞きにきたんだよ。あの言葉覚えてる?」
「う、うん……“ この、気持ちが……本気だった……ら……いつかその意味が、わかるよ”って……」
「そう……よく覚えてたね。で、意味はわかった?」
「意味は…正直まだわからない…だけど、ずっと考えてた。その言葉の意味とキスをしなかった理由。それと……」
手首に、跡が残るくらいキツくキスをされた意味を。
「じゃあ、さ、ななちゃんは今もオレの事が好き?」
「……す、好き……です。ずっと、忘れられなかった……」
そう言って自分の手首へと視線を移すと、それに気づいた亮介さんがその手を掴む。
「あのね、ここに…跡を残したのはオレの精一杯の愛情表現。」
「愛情…表現?」
「そう。その事も含め今から全部話すから。」
そう言うと亮介さんはあの言葉の意味をゆっくりと話し始めた。
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