27 / 59

第27話 窮屈なランチ①

 高圧的な恋敵認定を受けた後、レアンは普通にカロンに学院内と寮内の案内をしてくれた。  カロンを気に入ったという発言は嘘ではなかったらしい。  昨日の馬車の中や、部屋に迎えに来た時より態度が砕けて柔らかくなった。 (本当なら最推しと仲良くなれて嬉しいとか、ときめくとこなんだろうけど。安心感のほうが強い)  立場だけでなく性格的にも、レアンに嫌われるのは文字通り死に繋がりそうだ。  そういう腹黒な怖さがある。 (脇キャラとしては最高だけど、メインヒーローではないよな)  フェリムもそうだが、レアンも中々のキャラブレ具合だ。  他のキャラがどれだけブレているのか、逆に楽しみになってきた。 「ここはカフェテリア。テラス席と、奥に個室もあって予約すれば使える。メニューも豊富だ。寮にも食堂があるけど、夕食時も学院のカフェを使えるから、利用する学生も多いよ」 「本当だ。美味しそうなメニューばっかり」  メニューボードを見せながら、レアンが説明してくれた。  寮から、学院の講堂、教室、魔法訓練室、職員室などを巡って、やっとカフェまで来た。  小説には登場しない施設も多かったから、説明は有難い。 「ちょうど、お昼の時間だね。一緒に食事を、どうだい?」 「いいの?」 「案内はカフェで最後だから、ちょうどいいだろう。カロンには、聞きたい話も沢山あるからね。個室に行こうか?」  耳元で囁かれて怖気が走った。  昨日のリリムとの話を聞かれても、何も話せない。  カロンは必死に誤魔化す方法を考えた。  レアンがメニューボードを指さした。 「食べたいメニューに魔力を籠めて指先を近づける。注文はこれで終了だ。寮の食堂も同じシステムだよ」 「へぇ……。さすが魔法学院って感じだね」  レアンが何事もなかったように説明を続けるから、なるべく普通に返事した。  食事の注文も魔力を使う辺り、日頃からの鍛錬なのか、この世界ではそれが普通なのか。 (カロンは『神実』で特待生扱いだから、学費や寮費と併せて食費も免除なんだよな)  値段を気にせず食べていいなら、この世界ならではの食べ物を食べてみたい。  メニューとにらめっこしていたら、視界の端に黒い影が見えた。  カデルと一緒にリリムがカフェに入って来たようだった。 「よぅ! カロン、レアン」  気さくに手を上げて、カデルが声を掛けてくれた。 「カデル、リリ……」  リリムが、とんでもないスピードでいなくなった。  速すぎて残像だけ黒く残った感じだ。 (え……? 何アレ、魔法? 漫画だったら絶対、シュン! とか、ビュン! とか効果音が付いてる動きだよ)  思わず呆けた。 「やぁ、カデル。剣技の練習は終わりかい?」  声を掛けたレアンにカデルが歩み寄った。 「今日もいい汗かいたぜ。最近はリリムの剣筋が良くなってきたから、うっかりすると俺もあぶねぇ。気が抜けねぇよ。なぁ、リリム。あれ? リリム?」  カデルが不思議そうにリリムの姿を探している。 「リリムなら、凄い速さで、どこかに行っちゃったよ」 「いつの間に消えたんだ? 気が付かなかったな」 「面白い動きだったよ。最近のリリムは俊敏だね」  怪訝な顔をするカデルとは裏腹に、レアンが笑っている。  どうやらレアンは気が付いていたらしい。 (もしかして、避けられたのかな。俺が? レアンが?)  ちらりとレアンを見上げたら、笑みを返された。  その笑顔の意味が、解らない。 「あ! カロンだ!」  後ろから、ルカとシェーンがやって来た。 「レアンに案内してもらっていたの? 学院は広いから、覚えるのも大変だよね」  シェーンが優しく声を掛けてくれた。 (ルカとシェーンは小説の中でも一緒にいるシーン、多かったけど。この世界でも同じなんだ)  魔法属性が風と土の二人は相性が良い。  いつも二人でアフタヌーンティを楽しんでいるイメージだ。 「ねぇ、カロン。一緒にお昼、食べよ」  ルカが、カロンの腕を引く。 「でも、今からレアンと……」  答えられないにしても、何かは話しておかないと、永遠に聞かれそうだ。 「構わないよ、皆で一緒に食事しようか。歓談しながら昼食を取れば、カロンも馴染めるだろうからね」  レアンが優しく微笑む。  その表情は小説に出てくる純白な完璧王子レアンそのものだ。 (でも俺は知っている。この世界のレアンの腹黒さを。もう只の優しい笑顔だとは思えない)  小説の中のレアンの笑顔とは、含む意味が違う。  改めて、ここが異世界なんだと思い知った。 (とりあえずレアンが良いって言うんだし、いっか。夜神くん……じゃなくて、リリムに相談して、対策を考えよう)  一先ずこの場を凌げればいい、と思ったが。  その考えが甘かったと、すぐに思い知った。 「カロンは昨日、リリムと何を話していたの?」  食事を始めてすぐ、シェーンが本題を遠慮なく振ってきた。  何も考えていないような顔だが、絶対にそれはない。 (ルドニシア家は王族の護衛で間諜。シェーンのほうがレアンの百倍、腹黒いはず。きっとあの、のほほーんとした表情にも裏がある)  ヴァンベルム家の御目付役でもあるから、リリムに関わる事柄は把握しておきたいはずだ。  加えて、シェーンもリリムが大好きなようだから、レアンと同じ意図の探りでもあるんだろう。  レアンのせいで、キャラたちの表情を素直に受け取れない心境が、すっかり整った。 (純粋な心で異世界を楽しめなくなっている、俺……。俺の純粋な心、戻ってきて)  何も疑わずに、皆に愛される主人公でいたかった。 (無条件のハーレムって、そうそうできるもんじゃねぇよな。異世界も結局は世知辛い)  心の中で泣きながら、カロン神木は必死に言い訳を考えた。 「……リリムに、内緒って、言われているので、内緒です」  考えあぐねた結果、これしか浮かばなかった。 (リリムが悪役令息なら脅されたで納得してもらえるけど。今のリリム夜神じゃ無理だよな。他人を脅迫なんか絶対にしねぇもん)  空気が変わったような気がして、カロンは皆を見回した。 「内緒……? 今のリリムが?」 「内緒の内容を全部話して、だから内緒だ、とかいうリリムが?」  カデルの反応とルカの説明は、間違いなくリリム夜神だ。 「えっと……、リリムに聞いてもらえれば、そうなるかもしれないけど。俺は内緒って言われたから、約束を守りたいかなって」  レアンとシェーンが納得したような顔をした。 「なるほどね。これはリリムから聞き出すしかないよ、シェーン」  レアンが楽しそうな視線をシェーンに向けた。 「カロンは私たちのライバルだから、きっと話してはくれないよ」 「なっ……!」  レアンの目が今度はカロンに向く。

ともだちにシェアしよう!