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第28話 窮屈なランチ②
「えぇ⁉ カロンもリリムが好きなの? 昨日、会ったばかりなのに?」
ルカのツッコミが痛い。
(痛いけど、ルカは今のとこ、小説通りの可愛い系毒舌っぽい。この程度は仕方ない)
「夢の中で逢瀬を繰り返していたらしいよ。『神実』と『魔実』は繋がりが深いようだ」
レアンの説明に、どんどん身が縮こまる。
中途半端についた嘘が広がっていくのは居た堪れない。
「御伽噺みたいだね~。てことは、カロンとリリムの出会いって、運命なんだ」
「運命というか、どうだろうね」
曖昧な返事になった。何とも返事のしようがない。
国が重宝する果実という特別ポジションの二人だ。運命と言えなくもない。
(ていうか、二人揃って同じ小説世界に転生している時点で、俺は運命、感じるけどね)
恋愛的な要素だけではない運命を感じる。
「ふぅん。リリムに聞いた話と、ちょっと違うね」
シェーンが、ふわりと話題を変えてきた。
「リリムに? 何を、聞いた……の?」
「カロンはレアンに憧れていて、会えてとても喜んでいるって聞いたんだよ。だから、二人でいる時間を邪魔したくないって。てっきり、カロンはレアンに恋しているのかと思ったよ」
食い気味に話したシェーンの目が一瞬、鋭くなった気がした。
だが、すぐに柔らかな笑みに戻った。
「昨日は、そういう話をしたんだと思っていたんだけどね、違うの?」
息を飲みすぎて息が止まりそうになった。
咄嗟に言葉が出なかった。
(俺の今の心境、リリム夜神は知らないから。俺の最推しはレアンだって、思っているだろうけど。いつの間に、その話をシェーンにしてたの。早すぎなんだけど)
不意に、さっきのリリムの行動を思い出した。
(俺とレアンが二人でいたから、気を遣って逃げたんだ。気を遣うトコ間違ってるよ、リリム夜神!)
リリム夜神の全力の優しさだと理解できるだけに、責める気にもなれない。
「俺は、えっと……」
確かにレアンに憧れていたが、今となってはただ怖いだけの腹黒皇子だ。
「レアンに憧れる国民は多いからねぇ。学院の生徒だって、ファンがいっぱいだもんね」
ルカの言葉に、カロンは全力で頷いた。
そういえばレアンには、国民に慕われる皇子設定があった。
キャラブレしていても、その設定が活きていてくれて、良かった。
「私に憧れてくれたのかい? 嬉しいな。でも、ついさっき私に向かって、宣戦布告してくれたよね?」
「宣戦布告? レアンに向かってか?」
カデルが怪訝な顔を向ける。
「リリムは俺のだ、って。胸倉を掴まれたんだ。久し振りにゾクゾクしたよ。あの時のカロンの顔、格好良かったな」
レアンが、うっとりと話す。
それは一体、どういう心境かと問いたくなる顔だ。
「レアンの胸倉を掴むって……、カロン、死にたいの?」
ルカが、顔を顰めている。声のトーンが低くて本気の問いかけに聴こえる。
カロンは、ぶんぶん首を振った。
「胸倉、掴んでない! 襟をちょっと引っ張っただけで」
「似たようなもんだな」
カデルに実も蓋もないツッコミをされて、絶望した。
「レアンにそこまでするって、つまり本気って意味だね。普通の可愛い男の子かと思っていたけど、そうではないみたいだね。カロンに興味が出て来たな」
足を組んで斜に構えたシェーンが、口端を上げて笑った。
「俺もリリムに本気だから、手加減しないよ。よろしくね、カロン」
細まった目が、獲物を捕らえた狩人のように笑んだ。
(あー……、シェーンの本気スイッチ入っちゃった。きっとこの顔が、シェーンの素だ)
普段は物腰柔らかで、下手をすれば気弱に見えるシェーンだが。
実は度胸も良くて、好戦的な性格をしている。家柄的に普段は、能ある鷹が爪を隠している状態だ。
実力も言わずもがな、『五感の守り』の中でもレアンと並ぶ高位魔術師という強キャラだ。
(シェーンは小説設定通りの性格だ。それが今は逆に痛い)
多少、ブレていて欲しかった。
レアンがキャラブレしたせいで、微妙にキャラ被りしている。
(腹黒二人にロックオンされてる。俺、死ぬかもしれない)
異世界に来て、初めて命の危機を感じた。
「あんまり虐めてやるなよ。カロンは学院に来たばかりなんだ。不安もあるだろうぜ」
カデルが労ってくれた。
その言葉に癒された。
「そうだよ。リリムの取り合いもいいけどさ。レアンとシェーンは『五感の護り』なんだから、カロンとリリムと一緒に残りの三人、探さなきゃでしょ。仲良くやりなよ」
ルカが、ぷんすこしている。
カロンのために怒ってくれているなら、ちょっと嬉しい。
「私は仲良くやれるよ。カロンは、リリムの次に気に入ったからね」
レアンが嬉しそうに断言した。
その顔を見て、カデルとルカが同じように、げんなりした。
「カロン、死亡確定だね。レアンの性癖、踏んじゃった」
「え? 何、それ何? ねぇ!」
思わず、ルカの肩を掴んで揺する。
「レアンは、自分に意見したり立ち向かってくる相手が、好きなんだ。そういう相手が滅多にいないから、見付けると喜ぶんだよ」
カデルが、カロンの手をやんわりと剥がした。
剥がされたルカが、ちょっと不服そうな顔をしている。
「俺、別に、立ち向かったわけじゃ」
ただの勢いで言い切っただけだ。
そもそも自分の中の夜神への感情が恋なのかも、まだよくわかっていない。
「レアンて粘着質だから、一度気に入ると構い倒すんだよね。相手が真っ白な灰とか消炭になるまで、しつこくね」
ルカの説明が恐ろしすぎて、蒼褪めるしかない。
「カロンは強くて勇気がある。見所があるよ。私からリリムを奪いたいなら、私に負けないように頑張らないとね」
まるで既に自分のリリムのようにレアンが語る。
「蚊帳の外にしないで欲しいな。俺もカロンとは仲良くしたいよ。レアンの胸倉を掴めるカロンに、とっても興味が湧いちゃった。レアンに負けないくらい、俺とも遊ぼうね、カロン」
シェーンに良い笑顔を向けられた。
ラブコールが怖すぎて、座っているのに腰が引ける。
ルカが、カロンの腕を抱いた。
「仲良くするだけにしてよ。僕は純粋にカロンが気に入っているから、遊ぶのは僕とだよ。二人はリリムにだけ構いなよ」
「え? 俺?」
もはや、リリム夜神のハーレム状態だと思っていた。
(そういえば、ルカとカデルは昨日もリリムにあんまり寄ってなかった。俺に引っ付いてきたのも、ルカとカデルだったっけ)
その姿を見て、リリム夜神が嫉妬して、カロンの部屋まで引っ張られた。
(嫉妬……、あれは嫉妬で、いいんだよな)
考えると顔が熱くなる。
「僕は可愛い男の子が好きなんだぁ。僕とカロンが二人でいたら、可愛い子が二人で、絵的に最高じゃない?」
カロンに向かってニコリと笑むルカは、確かに可愛い。
「カロンは可愛いから、自分を守る術を身に付けないとな。明日から剣の練習、来るんだろ?」
「うん、行く」
カデルに良い笑顔を向けられて、素直に頷いた。
「楽しみにしているから、絶対来いよ」
大きな手で頭を撫でられて、ドキリとした。
(カデルに、可愛いって言われた。ちょっとドキってした)
小説を読んでいた時は、ただの登場人物でしかなかったキャラたちが、立体になっていく。
一人の人間だと、意識し始めていた。
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