28 / 59

第28話 窮屈なランチ②

「えぇ⁉ カロンもリリムが好きなの? 昨日、会ったばかりなのに?」  ルカのツッコミが痛い。   (痛いけど、ルカは今のとこ、小説通りの可愛い系毒舌っぽい。この程度は仕方ない) 「夢の中で逢瀬を繰り返していたらしいよ。『神実』と『魔実』は繋がりが深いようだ」  レアンの説明に、どんどん身が縮こまる。  中途半端についた嘘が広がっていくのは居た堪れない。 「御伽噺みたいだね~。てことは、カロンとリリムの出会いって、運命なんだ」 「運命というか、どうだろうね」  曖昧な返事になった。何とも返事のしようがない。  国が重宝する果実という特別ポジションの二人だ。運命と言えなくもない。 (ていうか、二人揃って同じ小説世界に転生している時点で、俺は運命、感じるけどね)  恋愛的な要素だけではない運命を感じる。 「ふぅん。リリムに聞いた話と、ちょっと違うね」  シェーンが、ふわりと話題を変えてきた。 「リリムに? 何を、聞いた……の?」 「カロンはレアンに憧れていて、会えてとても喜んでいるって聞いたんだよ。だから、二人でいる時間を邪魔したくないって。てっきり、カロンはレアンに恋しているのかと思ったよ」  食い気味に話したシェーンの目が一瞬、鋭くなった気がした。  だが、すぐに柔らかな笑みに戻った。 「昨日は、そういう話をしたんだと思っていたんだけどね、違うの?」  息を飲みすぎて息が止まりそうになった。  咄嗟に言葉が出なかった。 (俺の今の心境、リリム夜神は知らないから。俺の最推しはレアンだって、思っているだろうけど。いつの間に、その話をシェーンにしてたの。早すぎなんだけど)  不意に、さっきのリリムの行動を思い出した。 (俺とレアンが二人でいたから、気を遣って逃げたんだ。気を遣うトコ間違ってるよ、リリム夜神!)  リリム夜神の全力の優しさだと理解できるだけに、責める気にもなれない。 「俺は、えっと……」  確かにレアンに憧れていたが、今となってはただ怖いだけの腹黒皇子だ。 「レアンに憧れる国民は多いからねぇ。学院の生徒だって、ファンがいっぱいだもんね」  ルカの言葉に、カロンは全力で頷いた。  そういえばレアンには、国民に慕われる皇子設定があった。  キャラブレしていても、その設定が活きていてくれて、良かった。 「私に憧れてくれたのかい? 嬉しいな。でも、ついさっき私に向かって、宣戦布告してくれたよね?」 「宣戦布告? レアンに向かってか?」  カデルが怪訝な顔を向ける。 「リリムは俺のだ、って。胸倉を掴まれたんだ。久し振りにゾクゾクしたよ。あの時のカロンの顔、格好良かったな」  レアンが、うっとりと話す。  それは一体、どういう心境かと問いたくなる顔だ。 「レアンの胸倉を掴むって……、カロン、死にたいの?」  ルカが、顔を顰めている。声のトーンが低くて本気の問いかけに聴こえる。  カロンは、ぶんぶん首を振った。 「胸倉、掴んでない! 襟をちょっと引っ張っただけで」 「似たようなもんだな」  カデルに実も蓋もないツッコミをされて、絶望した。 「レアンにそこまでするって、つまり本気って意味だね。普通の可愛い男の子かと思っていたけど、そうではないみたいだね。カロンに興味が出て来たな」  足を組んで斜に構えたシェーンが、口端を上げて笑った。 「俺もリリムに本気だから、手加減しないよ。よろしくね、カロン」  細まった目が、獲物を捕らえた狩人のように笑んだ。 (あー……、シェーンの本気スイッチ入っちゃった。きっとこの顔が、シェーンの素だ)  普段は物腰柔らかで、下手をすれば気弱に見えるシェーンだが。  実は度胸も良くて、好戦的な性格をしている。家柄的に普段は、能ある鷹が爪を隠している状態だ。  実力も言わずもがな、『五感の守り』の中でもレアンと並ぶ高位魔術師という強キャラだ。 (シェーンは小説設定通りの性格だ。それが今は逆に痛い)  多少、ブレていて欲しかった。  レアンがキャラブレしたせいで、微妙にキャラ被りしている。 (腹黒二人にロックオンされてる。俺、死ぬかもしれない)  異世界に来て、初めて命の危機を感じた。 「あんまり虐めてやるなよ。カロンは学院に来たばかりなんだ。不安もあるだろうぜ」  カデルが労ってくれた。  その言葉に癒された。 「そうだよ。リリムの取り合いもいいけどさ。レアンとシェーンは『五感の護り』なんだから、カロンとリリムと一緒に残りの三人、探さなきゃでしょ。仲良くやりなよ」  ルカが、ぷんすこしている。  カロンのために怒ってくれているなら、ちょっと嬉しい。 「私は仲良くやれるよ。カロンは、リリムの次に気に入ったからね」  レアンが嬉しそうに断言した。  その顔を見て、カデルとルカが同じように、げんなりした。 「カロン、死亡確定だね。レアンの性癖、踏んじゃった」 「え? 何、それ何? ねぇ!」  思わず、ルカの肩を掴んで揺する。 「レアンは、自分に意見したり立ち向かってくる相手が、好きなんだ。そういう相手が滅多にいないから、見付けると喜ぶんだよ」  カデルが、カロンの手をやんわりと剥がした。  剥がされたルカが、ちょっと不服そうな顔をしている。 「俺、別に、立ち向かったわけじゃ」  ただの勢いで言い切っただけだ。  そもそも自分の中の夜神への感情が恋なのかも、まだよくわかっていない。 「レアンて粘着質だから、一度気に入ると構い倒すんだよね。相手が真っ白な灰とか消炭になるまで、しつこくね」  ルカの説明が恐ろしすぎて、蒼褪めるしかない。 「カロンは強くて勇気がある。見所があるよ。私からリリムを奪いたいなら、私に負けないように頑張らないとね」  まるで既に自分のリリムのようにレアンが語る。 「蚊帳の外にしないで欲しいな。俺もカロンとは仲良くしたいよ。レアンの胸倉を掴めるカロンに、とっても興味が湧いちゃった。レアンに負けないくらい、俺とも遊ぼうね、カロン」  シェーンに良い笑顔を向けられた。  ラブコールが怖すぎて、座っているのに腰が引ける。  ルカが、カロンの腕を抱いた。 「仲良くするだけにしてよ。僕は純粋にカロンが気に入っているから、遊ぶのは僕とだよ。二人はリリムにだけ構いなよ」 「え? 俺?」  もはや、リリム夜神のハーレム状態だと思っていた。 (そういえば、ルカとカデルは昨日もリリムにあんまり寄ってなかった。俺に引っ付いてきたのも、ルカとカデルだったっけ)  その姿を見て、リリム夜神が嫉妬して、カロンの部屋まで引っ張られた。 (嫉妬……、あれは嫉妬で、いいんだよな)  考えると顔が熱くなる。 「僕は可愛い男の子が好きなんだぁ。僕とカロンが二人でいたら、可愛い子が二人で、絵的に最高じゃない?」  カロンに向かってニコリと笑むルカは、確かに可愛い。   「カロンは可愛いから、自分を守る術を身に付けないとな。明日から剣の練習、来るんだろ?」 「うん、行く」  カデルに良い笑顔を向けられて、素直に頷いた。 「楽しみにしているから、絶対来いよ」  大きな手で頭を撫でられて、ドキリとした。   (カデルに、可愛いって言われた。ちょっとドキってした)  小説を読んでいた時は、ただの登場人物でしかなかったキャラたちが、立体になっていく。  一人の人間だと、意識し始めていた。 

ともだちにシェアしよう!