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第55話 魔王リリムの魅了【KK】→
ラスの先導で暗闇に堕ちたカロンたちは、大きな広間に着地した。
どうやらここが冥界で、魔王の居城らしいと気が付いたのは、目の前に魔剣を携えたリリムがいたからだった。
「レアン……、レアン、もっと、キスしたい」
「いいよ、リリム。気が済むまで私を貪って。私のために生きるリリムになって」
わからないのは、リリムを愛おしそうに抱くレアンがいること。
そのレアンを求めて唇を貪っているリリムの顔が、幸せそうに蕩けていること。
足元で血まみれのフェリムが倒れていることだった。
「フェリム! 一体、どうして!」
叫んで駆けだしたのは、シェーンだった。
シェーンの動きを阻止しようと飛んだレアンの攻撃を、カデルの剣とルカの土弾が弾いた。
「何してるんだよ、レアン!」
カデルを援護しながら、ルカが怒鳴った。
シェーンがフェリムの体を抱えて、後ろに飛び下がった。
総ての動きが、まるで画面越しの映像のように映る。
なのに、リリムの真っ黒な瞳だけが、やけにリアルにカロンの目に映った。
「何って、一つになるために睦み合っているんだよ。私とリリムで竜と女神を殺すための儀式だよ。私たちは、二人でメロウだからね」
レアンの目がニタリと笑んだ。
まるで醜悪な笑みに、吐き気がした。
「二人で、メロウ? どうなってるんだ? 二人に恋の矢が刺さってるのか?」
カデルが剣を構えながら困惑している。
レアンの眼とリリムの姿を見詰めて、カロンは瞬時に理解した。
(メロウの天使の核の隠し場所がリリムで、魂の隠し場所がレアンだったんだ。レアンの中には、最初からずっと、メロウがいたんだ)
アモルやクピドが動き出したタイミングも、カロンが一人の時を的確に狙ってきた行動も。メロウがレアンの中に潜んで状況を観察していたからこそのタイミングだった。総ては仲間として、側にいたからできた。
(夢野先生が話していた。魂は自我そのもの。喰われる前に助けないと、レアンが消える)
如何にも『魅惑の果実』らしい展開だと思った。
それなら、状況を覆すような考え及ばない一手が、絶対に存在する。
(それが、夢野迷路が書く、俺が大好きな『魅惑の果実』だ。主人公の俺が、その一手を見付けるんだ)
「皆、今のレアンは大天使メロウだ。リリムの中に隠した天使の核を回収しに来たんだ。魔王になったリリムの全部を手に入れて、竜とアメリア様を殺して、この世界を消滅させる気だ」
カロンの言葉に、全員が息を飲んだ。
カロンはレアンを睨み据えた。
レアンが嬉しそうに笑みを返した。
「リリムが冥界に去った後、カロンが泣き寝入りしてくれて、良かったよ。皆と離れて、怪しまれずに準備する時間が出来た。君たちを地上に縫い留める口実も簡単に作れた。その間にリリムは冥界を整備して、魔王として力を付けた。今のリリムは予想をはるかに超えて優秀だ」
レアンが、愛おしそうにリリムの頬を撫でる。
顔を上げたリリムの目が嬉しそうに蕩けた。
「優しいリリムは、自ら私の手に堕ちてくれたよ。カロンではなく、私を愛する選択をしたんだ。とても賢い魔王様だね。お陰で天使の核も魔王の魔力を吸って順調に育っている」
リリムの腹をレアンの指が艶めかしく撫で上げる。
その指を掴まえて、リリムが口に含むと、吸い上げた。
レアンの愛撫の総てが嬉しいと、リリムの蕩けた顔が語っている。
(これじゃ、リリムが大天使メロウの玩具だ。リリムが本当に闇堕ちしちゃった。天使に堕ちたから、光堕ちなの? いや、今はどっちでもいい。俺以外に好きにされてるリリムなんか見たくない)
レアンの手がリリムの顎を摩る。
リリムが、自分からレアンにキスをした。
「愛してる、レアン。早くレアンの望みを叶えよう。レアンの望みは、僕の望みだ。この世界が消える前に、レアンに抱かれたい」
リリムが待ちきれないとばかりに急く腕を、レアンの首に回す。
レアンが見せ付けるように、わざと向きを変えた。
リリムが蕩けた顔で、自分から必死に唇を吸っている。
レアンの目がカロンを流し見る。愉悦に溢れる目で笑んだ。
カロンの中に、じわじわと怒りが込み上げた。
「あぁ、可愛いね、私だけのリリム。私も早く、リリムと体を繋げたい。リリムが可愛くて、世界を消滅させる意思が鈍りそうだ。こうして永遠に二人だけで愛し合っていたいね」
レアンがリリムに口付ける。
体が仰け反るほど深いキスをリリムが懸命に受け止める。
服の上から胸を擦られて、リリムの体がビクビクと反応した。
「ぁん……、レアン、早くぅ……、ぅん、んんっ……。もぉ、ベッドに行きたい。……ぁんっ」
キスしながら尻を指で押さえられて、リリムが体を震わせる。
レアンが股間を押さえて擦り合わせると、また可愛い嬌声が漏れた。
「ぁっ、ぁん! も……、我慢、できな……ぁんっ。早く、ねぇ……、早く、脱がせて……んぅっ!」
赤い顔も涙を溜める瞳も恥じらう仕草も、反して大胆なセリフも、全部が可愛い。
「ちょっと、リリムが可愛すぎるんだけど。めちゃめちゃ可愛くて、死ぬほどムカつく」
顔を染めながら怒るシェーンには、同意しかない。
今のリリムは完全に可愛い受けだ。
「レアンが望むリリムって、あんな感じなのかな」
思わずぽそりと零れた。
天使の核の影響を受けているなら、メロウに憑依されているレアンの願望が反映されているんだろう。
「俺はリリムに恋心とかねぇけど、あれは可愛いな。レアンに抱かれてんのに、ドキドキする」
カデルが戸惑いながら、目を逸らさずにリリムを見詰める。
「僕もカデルと同じだけど、今ならリリムを抱きたいって思う。レアンに混じっても、いいかな」
ルカも同じ顔でリリムを見詰めていた。
(ん? あれ? 皆、ちょっと言ってること、変じゃない?)
不意にシェーンが立ち上がった。
「レアンがリリムに手を出すなら、俺もリリムを奪いに行って、いいよね。抜け駆けナシ、なんだから」
フラフラとリリムに歩み寄るシェーンを、カロンは引き留めた。
「こんな時に何言ってんだよ、シェーン! リリムを奪い返さなきゃ。天使の核を壊して、レアンの中のメロウを追い出さないと!」
「だって、リリムは『魔実』だよ。俺たち『五感の護り』が愛してもいい存在だよね」
振り返ったシェーンの目が、蕩けまくっている。
(え……? シェーンの目の中にハートが見えるんだけど。これ、BL漫画じゃないよな)
BL漫画にありがちな、イキまくって気持ちよくされまくった受けの目に描かれているハートが見える。
カロンは自分の目を、ごしごしと擦った。
驚いて動きを止めたカロンの手を、シェーンが振り解いた。
「どうする? リリム。シェーンはリリムを愛したいと言っているよ」
レアンがリリムの耳元に問い掛けた。
遠くてよくわからないが、レアンの目の中にも、それらしきハートが浮かんでいるように見える。
「シェーンも僕を愛してくれるのか? 早く、こっちに来て、僕に触れて」
リリムがシェーンに手を伸ばす。
シェーンがリリムに駆け寄って手を握ると、顔を引き寄せてキスをした。
「やっと俺もリリムを愛せるんだ。リリムも俺を愛してくれるんだね」
「愛してる、シェーン。一緒に気持ち良くなって、幸せになろう。いっぱい、キスして」
シェーンがリリムのおねだり通りに、深いキスをした。
舌が絡み合う水音が広間に響く。
官能的な音が、やけに快楽を煽って、体が疼いた。
(これってまさか、『魔実』の魅了? リリムが全力で皆を誑し込もうとしてる?)
「ん、ぁっ……、シェーンのキス、きもちぃ……、僕の体に、触れて」
シェーンの手を握って、自分の肌に滑らせる。
「ぁぁ……、リリム、我慢できないよ」
シェーンがリリムの胸に吸い付いた。
「ぁんっ、はぁ……、んっ、シェーン、好き……、もっとぉ」
蕩けた嬌声は、おおよそリリムの口から流れたとは思えない声だ。
聞くだけで腹の奥が疼いた。
カラン、と剣が堕ちる音がして、カデルが玉座に向かって歩き出した。
ルカは既に玉座の階段を昇っている。
「待って、カデル、ルカ! あれはリリムの『魔実』の魅了だ! 冷静になってよ!」
レアンが後ろからリリムを抱き上げて、玉座に座した。
自分の上にリリムを座らせると、股間をリリムの尻に押し当て始めた。
それだけで、リリムの顔が蕩けた。
「レアンの、熱い……もっと、ゴリゴリしてぇ……っぁ! 早く、僕の中に、入って……」
「リリム、こっち向け、俺ともキスしろ」
カデルが乱暴にリリムの唇を奪う。
リリムにキスするカデルの目にもハートが浮いている。
「狡い、僕も。僕も、リリムが欲しい」
リリムの顔を毟り取って、ルカがリリムにキスして唇を吸い上げた。
同じように目の中にハートが浮いている。
「ん……、んぅ……、二人とも、きもちぃ。皆で、気持ちよく、なろ……」
ルカとカデルの手を掴んで、リリムが自分の体に触れさせた。
「皆ともっと、善くなろうか、リリム。体中、たくさん触ってもらおうね」
レアンがリリムの耳元で囁く。
息を荒くしながら、リリムが素直に頷いた。
リリムの蕩けた目にもしっかりとハートが浮いている。『魔実』の魅了が発動しているサインだろうか。
「触って、もっと、僕の恥ずかしい所も、全部……」
「じゃ、ここも、いいよね」
欲情の浮いた顔で、シェーンがリリムの股間に触れる。
「あぁあ! そんなとこ、はずかしぃ……」
恥じらう顔が艶に溢れて、ドキリとした。
「服の上からじっくり虐めて、善くしてあげる」
ごくりと唾を飲み込んで、シェーンがリリムの股間に顔を埋めた。
ルカとカデルが、服の上からリリムの胸に顔を寄せて、胸を舐め上げる。
浮いた腰を押さえつけたレアンが、リリムの唇を塞いだ。
「やべぇ絵面になってる。RものBLゲーのハーレム状態になってる」
カロンはその光景を遠巻きに見ながら絶望の呟きをした。
「カロンと『五感の護り』を魅了で虜にしてメロウを焦らせるって作戦、完全に裏目に出たね。ていうか、リリムの魅了、強すぎじゃない? メロウまで魅了されてない?」
カロンの隣で、ラスがまじまじとリリムが犯される光景を眺めている。
レアンの中にいるメロウは、最初からリリムにエロいキスをさせたり、愛の言葉を言わせたりしていたから、よくわからない。
そもそもアレがメロウの意志なのかレアンの願望なのかも、見分けがつかない。
だが、レアンの目にもハートが浮いているから、魅了に掛かっているのは間違いないんだろう。
「ラス、止めてよ! あのままじゃ、もっと如何わしい事態になるよ!」
「あの程度なら、いいんじゃないの? 最悪、リリムが犯されて5Pになっても、気持ち良いだけだし。最後までシちゃっても、死ぬわけじゃないしさ」
大変、悪魔的なご意見だ。カロンとしては受け入れ難い。
「全然良くないですよ。どうにかしないと、私が殺しそうです」
倒れていたフェリムが、むっくりと起き上がった。
悪魔の意見を殺意で全否定した。
「フェリム、怪我は大丈夫なの? てか、フェリムはリリムの魅了、効果ないの?」
フェリムの目にも薄らとハートが浮いてみえる。
なのに、目は蕩けていない。
「怪我はシェーンの回復魔法で何とか大丈夫です。リリムに食らいつきたい欲はありますが、我を忘れるほどではありません。リリムに吸い付いている全員、殺したい衝動のほうが強いです」
いつものフェリムだと思った。
苦々しい顔をしながら、顔を赤らめている。
リリムへの普遍の愛と俗物への殺意が、魅了の術を抑え込んでいるようだ。
ある意味、悟りだなと思った。
「フェリムは冥界に来てから毎日、口移しでリリムに濃厚な魔力を貰ってたから、耐性が付いてるのかもねぇ」
ラスがムフフと笑ってカロンを眺めた。
良かったと思うべきなのだろうが、安心できない情報だ。
「リリムが可愛いお陰で、レアンがリリムに未練あり過ぎて、メロウの目的である世界の消滅を先延ばしにしてるっていうか、何なら忘れかけてるから、あのまま犯されて可愛い姿を晒してくれてたほうが、やり易いじゃん」
ラスの発想が、何というか悪魔っぽいというか俗っぽい。
レアンの煩悩が大天使の野望を上回ったらしい。
カロンは呆気にとられた。
「それって、レアンの欲情がメロウの野望を抑えてるってコト? レアンのリリムへの色欲、強すぎじゃない?」
世界を滅亡させたい野望を抑えるほどの愛で、情欲なんだろうか。
強すぎて勝てる気がしない。
「レアンの中のメロウが、若干、慌ててるよね。我的には面白いから、もう少し見ていたい」
ラスが面白尽の顔で笑う。
「このままで、いいはずがありません。カロン、早くメロウを殺しましょう」
フェリムが魔法の杖を具現化して、立ち上がった。
あの場にいる全員を殺しそうな目だ。
「いや、殺すって言っても、この状況でどうしたらいいのか」
「カロンとフェリムが正気なら、出来る作戦はあるけど、やる?」
ラスが悪い顔で笑った。
どう控えめに見ても、優しい作戦ではなさそうだ。とはいえ、カロンに良策は浮かばない。
「今はラスに乗っかるしかないよね。やるしかないよね」
「私は迷いません。やりましょう」
こういう時のフェリムの思い切りの良さには感心する。
カロンに恋の矢が刺さっていた時の行動にも、迷いがなかった。
「決まりだね。じゃ、三人で大天使メロウを殺そうか」
ラスが、愉しそうに笑った。
とても悪魔的な笑みだと思った。
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