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第3話 ルッキズム

 俺たちの父ちゃんはこの母親に追い出された。 「甲斐性なし!出て行け!」  金持ちの客を掴んだから、父が邪魔になったんだろう。離婚する時も、俺と姉ちゃんを母親は手放さなかった。 「可愛い顔してるから、アタシが引き取るよ。」 美形だから引き取ってやった、といつも恩着せがましく言われた。 「可愛い顔してるから、いい子だね。」 そう言って抱きしめてくる、タバコ臭い母親が大嫌いだった。  俺は弱小の芸能事務所に所属している。美少年コンテストで入賞したので渋々手を上げてくれた事務所だった。 「今時は、背が高くて筋肉がないと流行らないんだよ。仕事は、あるよ。なりふり構わなければ、ね。」  覚悟はあるか?と訊かれたときは正直、意味がわからなかった。  落ちぶれたら、汁男優の仕事だ、と脅かされた。汁男優をウィキペディアで調べたら恐ろしい職業がヒットした。俺には無理だろ⁈  何度も言うけど、俺たちの母親は男にだらしなくて、俺が小さい頃、離婚していた。   父との思い出は、離婚してからの、あのフラメンコの記憶が一番大きかった。  母の関心は自分のルックスだった。ルッキズムに生かされているようだった。  母はまあまあ美人だったから、いつも自分磨きに忙しそうだ。  自分磨き、が専ら外見だけで、母に知性も教養もない事は大人になって気がついた。 「ヒカル、お父さんだよ。」 高校生になったある日、母が中年の男を連れて来た。姉の玲奈は高校3年になっていた。その日はまだ帰宅していなかった。 「アタシ、この人と結婚するから。 今日からヒカルはこの人をお父さんと呼びな。」  風采の上がらない神経質そうな男だった。 外見を気にする母にしては珍しく、イケてないおじさんだった。  学校から帰って来た玲奈は、嫌がって泣いた。 「キモい!あんな男、父親だなんて認めない。」 いつも外見で人を判断する姉だった。 「なんであんな男、選んだのよ。」 食ってかかる姉に母は言った。 「あの人、マンション持ってるのよ。 それにまあまあの資産も持ってるっていうし。 私のために保険に入るって言ってるから。」  金がありそうだ、という事で玲奈は納得した。 最後まで「お父さん」とは呼ばなかったが。  この男には子供がいた。前妻が引き取ったが、たまに会うそうだ。俺たちより年上。  俺たちは急いで養子縁組をさせられた。 実子と同等の権利を持たせたい、母の意向だった。  
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