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第6話 義父の自死
姉の相手の親はお祝いだ、と言って車を買ってくれたらしい。姉貴の選んだ新車のタントだった。
「軽だよ。ケチくさい。アルファードでも買ってくれたらいいのに。」
家族持ちのヤンキーが好きな車だ。玲奈の見栄っ張りな性格がわかる。
「自分で選んだんだろ。」
「ダンナに遠慮したの。貧乏そうだったから。
小市民丸出しの親だよ。」
腑に落ちないが所詮他人事だ。
そんなこんなで玲奈の旦那には未だ会えていない。義理の兄貴。
母は、二番目の夫を毛嫌いし始めた。
家の中でのひどい仕打ち。元々神経質な二番目の父は,精神を病み始めた。
見るからに鬱病とわかるくらいになっている。
「おっさん、病院に行ったら?」
俺は声をかけた。
「いいんだよ。私には君たちが宝物なんだ。」
泣かせる事を言う。
(悪い人じゃ無いんだよ。
おふくろももう少しやさしくできないかな。)
俺はこの父に同情した。
おふくろは相変わらずスナック勤めで、客と浮気していた。
「ただいまー、水ちょうだい。」
酔っ払って朝方帰って来たおふくろが、おっさんに言った。
「ホテルから帰って来たのよ。楽しかった。
新宿のホストクラブで素敵な人に出会っちゃった。セックスも上手なのよ。
アンタも教えてもらいなさいよ。
いつもワンパターンで、さ。」
「おまえ、それは不倫だ。犯罪だよ。」
俺も、聞いていられなくて自分の部屋に引っ込んだ。
(おふくろ、やりすぎだ。薄汚い女め。)
ガラガラっとベランダに続くガラス戸が開けられて、おっさんが飛び降りた音がした。
静かにおふくろが来て
「お父さん、飛び降りちゃったよ。
死んだ? アタシ見れない!」
俺は慌ててベランダから下を見た。
ここは15階だ。小さくひしゃげた人の身体が見えた。
「救急車?」
「もう死んでるよ。110番だろ。」
青い顔をして母が立っていた。
それからが大騒ぎだった。
おっさんは即死だった。突発的な自殺だったから警察の現場検証が長かった。
誰かが突き飛ばしたのでは?と言う疑い。
長い事情聴取で酔いも覚めたおふくろは、忙しく動き始めた。
保険屋に連絡。そしてマンションを売る手配。
用意周到に準備されていた。
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