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第8話 葬式

 そう言えば、この母は葬式も出さなかったのだ。向こうの親も前妻も戸惑っていた。 「お葬式もしないなんてあり得るのか?」 俺の心配をよそに 「いいの、いいの。自殺なんだから密葬って事で誰にも知らせなくていいんだよ。  余計な金をかけたくないしね。」 驚くべき事に今時は、密葬が多いらしい。  葬儀社に遺体を預かってもらい、火葬の予約を取って運んでもらう。  予約通り焼き上がったら骨上げをして骨壺を持ち帰るだけの火葬式だった。式と言っても,ここで、僧侶に読経を頼む人もいるが、俺たちは誰にも頼まず火葬場の焼却炉にお棺を入れる所を見ていた。普通、この時はみんな泣き叫ぶそうだが、 おふくろは薄ら笑いを浮かべていた。 「無宗教って楽でいいわ。」 遺骨を抱えて母はサバサバしていた。どうしたらこんな人間が出来上がるのか。  人の心は無いのか?初めて人の死に関わって、何とも言えない気持ちになった。  おふくろは前妻の子に遺産の分割分を振り込む時、悔しがった。 「分けてやるのが惜しい。 こんな金、すぐに使い果たしちゃう。 分けなくて済む方法はないの?」 税理士にくってかかった。不動産屋の紹介の税理士だった。おふくろのあまりのがめつさに驚いていた。  おふくろは入った遺産で早速、美容整形をした。鼻と顎を削ってシミとシワを取る。整いすぎて不気味の谷になっていた。  おまけに豊胸手術まで。 「気持ち悪いんだよ。いつまで色気付いてんだよ。」 自分の母親ながら、呆れ返った。
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