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第9話 太一さん
こうして俺は玲奈の結婚相手に会いに行く事になった。一千万円くらい残っている俺の金を投資に使うためのアドバイスをもらいに。
見栄っ張りの玲奈がローンで買った建売り住宅に住んでいる。
兄貴の給料で組めるローンの限度額いっぱいで買った家。
若い夫婦が子育てを頑張っているような可愛い家だった。車がある。タントだ。
初めて会うのだ。ちょっと緊張してインターフォンを押す。
「はい、ヒカル君?開いてるから入って。」
ドアを開けてくれたのは子供を抱いた人だった。
(玲奈は何やってんだ。)
それは衝撃だった。
「初めまして。宮原太一です。」
「あ、あっ!お義兄さん。
初めまして。玉田ヒカルです。
姉がお世話になってます。」
俺の態度はおかしかっただろう。玲奈の夫は、あのフラメンコダンサーに似ていた。一目見て目が釘付けになった。
忘れた事はない。俺の理想の人。長い間には、勝手に美化していたが、イメージは変わっていない。スレンダーな身体。無駄なものは無い。
背が高い。玲奈の好きなタイプ。ドストライク。彼を選んだのは当然だったろう。
「あのぅ、お義兄さんは、フラメンコとか、やってませんよね。似てる人がいるんです。」
彼は首を傾げて、変な事を言うなぁ、と言う顔をした。ちょっと辛そうに見えたのは気のせいか。
「いや、全然知らない。
今の会社でパソコンに向かっている毎日だよ。」
地味な仕事だ、と笑う。その控えめな諦観が知性を感じさせる。
「ヒカル、いつまで夢みたいな事を言ってんのよ。現実はこんな小さい家を買うのが精一杯でしょ。太一はプライドばかり高くて嫌な奴よね。
ヒカルもそう思うでしょ。気取ってんじゃないわよ。」
(ああ、こんな女にもったいない。)
怒りにも似た感情が湧き上がって来た。
抱いている子供がむずかり始めた。
玲奈が抱き取ったらギャン泣きだ。太一が抱っこしたら泣き止んだ。
子供はパパが好きみたいだ。
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