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第10話 義理の兄貴
「何しに来たのよ。
投資でしょ。小遣い稼ぎでしょ
儲かったら、手数料取るわよ。」
「給料が安いから、玲奈には我慢させてるね。
投資って言ってもそんなに大きな取り引きはしないんだ。君の期待に添わないかもしれないね。」
何かを話していても、その端正な顔に見惚れる。背が高くて筋肉質だ。もうパーフェクト。
俺の理想だ。
ただ顔がいいだけじゃない。知性と教養を感じさせる人柄が滲み出ている。
初対面でもう、兄貴のファンになった。
俺はつくづく考えてしまった。
この綺麗な人、完璧な人、を、バカの玲奈が無駄に消費している。何か許されない事のように思うのだ。理不尽だ。
簡単な投資に関するレクチャーを受けた。
兄貴は堅実な人だった。確実な銘柄だけに投資する。ハイリスクハイリターンは狙わない。
俺はその控えめな態度に好感を覚えた。
目を上げれば目の前にあの完璧な顔がある。
緊張して、頭が真っ白、せっかくの教えが頭に入らない。
「あの、また教えていただけますか?
一回じゃ覚えられない。」
「僕もそんなに詳しくないんだ。
悪いね、あまり役に立たなくて。」
「そんな事はないです。勉強になりました。
今日はありがとうございました。」
眠っていた子供が目を覚ましてぐずり始めた。
「太一、波留駆(ハルク)が泣いてる。」
玲奈は全部、太一さんに丸投げだ。波留駆とは、また大層な名前だ。キラキラネームみたいだ。
「ヒカル、ご飯食べてく?ウーバーで何か頼もう。」
どうせ、玲奈は料理できない。おふくろも何も作れなかった。家の食事はいつもスーパーのお惣菜だった。死んだ二番目の父もその事でいつもケンカだった。
(家事も嫌いなら主婦なんかになるなよ。)
「太一さん、不出来な姉ですみません。」
「あら、何で女がやらなければいけない?
ウチは進歩的よ。太一が全部やってくれるよ。」
「仕事で疲れてんだろ。
おまえは何もしてねえじゃん。」
「ウチの事に口出さないでよ。生意気なんだから。」
子供がギャンギャン泣き始めた。
「うるさいなぁ。あたしは子供嫌いなんだよ。」
驚いた。まるで地獄絵図だ。
「いつも、こんな感じなんですか?」
「いや、玲奈はよくやってくれてるよ。
僕が頼りないんだろ。ごめんよ。
よしよし、いい子だね。」
子供を抱き上げて優しく揺らすと静かになった。
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