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第11話 玲奈

 あれから数日経った。 帰ると、おふくろが子供を抱いている。波留駆だ。いつも思う。ハルク、ご大層な名前だ。 ぐずり始めた。まだ2才にならない、赤ん坊みたいなものだ。おふくろは手を焼いている 「ヒカル、子守り代わって。」 「どうしたんだよ。玲奈はどこ行ったんだ?」  おお、よしよし、とか言いながら抱き取ってあやした。ハルクはおとなしくなった。 「こいつは男が好きなんだな。」  まだ、ミルクが必要なハルクに哺乳瓶をもたせて優しく抱き上げた。 「可愛い。」 俺の父性が目覚める。 「おまえ子守上手いね。これからはヒカルの担当にするよ。」 「玲奈はどうしたんだよ。」 「なんか高校時代の友達と合コンだって。」 「馬鹿野郎。人妻だろうが。」 「つまんない生活してんだよ。 あの男じゃおもしろくないだろ。 くそまじめで、どうにもあたしゃ好かないよ。」 「何言ってんだよ。まじめでいい人じゃねぇか。」  正直言ってこの前出会ってから、 俺は太一さんが忘れられなかった。会いたい。  ハルクはよく寝ている。可愛い。 ミルクを飲んでパンツ型のオムツをして、本当に手のかからない子供だった。 「こんな子がいて、あの素敵な夫がいて、何の不満があんだよ。罰当たり玲奈め。」 「おまえは男が好きだから甘いんだよ。」 「男が好きって、人聞きの悪い事言うなよ。」 おふくろは狡そうな顔をしてこっちを見た。 「あたし、知ってんだよ。おまえ、ホモなんだろ。」 「ふざけんな。変な事言うなよ。」  俺は一応今売り出し中のアイドルなんだぞ、と心の中で叫んだ。いかんせん、売れてないので立場が弱い。 (この頃、ヤッテねえな。セフレはいるけどその気にならない。頭の中は太一さんで一杯なんだ。)  でもたまには抜かないと、ヤバイ。 襲っちまいそうだ。暇そうな元カレに連絡した。  そいつは明日ならホテルに行けると言った。 その夜は遅くに太一さんがハルクを迎えに来た。 玲奈はまだ帰らない。太一さんは悲しそうに子供を連れて帰った。 「こんな事、よくあるんですか?」 縋りつきたい気持ちで聞いた。
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