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第14話 示談
太一は一人で話し合いに行ったらしい。
相手は全面的に自分が悪い、と認めていた。
太一はそんなに大きな額を要求しなかったので示談になった。相手の妻は玲奈に何も言わなかった。男に言い含められていたのだろう。
安い金額で示談は成立した。
示談書を作成してサインをさせる。その書式に太一の知性が感じられた。全てを録音して、終わった、、と思われたが。
「示談なんて払わなくていいわよ。
払わない者勝ちよ。放っといていいよ。」
玲奈は昔から付き合いのある男にいい所を見せたかった。田舎のヤンキーの繋がりは大事にしたかった。馬鹿な女。地元の輩の笑い者だった。
「昔からだよ。あのサセコ。」
「俺たちには逆らわねぇよ。人妻なのにな。」
それでも、玲奈は地元の連中にいい顔をしたかった。夫が笑い者になっても、だ。
太一はこの頃ふさぎ込むようになった。
ハルクに会いに時々太一の家に立ち寄る俺は、その変化に気付いた。
太一に投資のレクチャーをうけるため、と称してたびたび会いにいった。心配だった。
あんなに明るかった太一が口数少なく応対してくれる。
(鬱病っぽいな。死んだ二番目の父と似てる。)
俺は気が気じゃない。
たまに玲奈の顔を見ることがある。
「玲奈、家の掃除しろよ。
料理もしねえのに台所も汚ねえ。」
「ウルセェな。おまえの家じゃないだろ。」
だんだん荒んで来た。
俺は太一が心配だった。
「いつもハルクの子守りをしてもらってすまないね。」
俺に懐いているハルクに嬉しそうな太一の顔を見るのが俺の生きがいになった。
(兄貴のためなら何でもするよ。
玲奈なんかどうでもいい。)
この頃、また、玲奈の男遊びが始まった。
ハルクの世話で太一と過ごす時間が増えた俺は、この家に来るたびに募る思いに気付く。
「太一さん、いや、兄貴って呼んだ方がいいですか?俺・・。あ、何でもないです。」
(俺は何が言いたいんだ。
正直に言えば、きっと何もかもが台無しになる。)
戒める気持ちが揺らぐ。孤独な太一を見ているだけなのがつらい。
「いかぁ。」
「俺はヒカル、イカじゃないよ。」
ハルクが名前を呼んでくれる。
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