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第15話 バレエ

「おふくろ、この頃、太一さんが暗いんだよ。 玲奈にちゃんとやれって言ってやってよ。」 「は、何言ってんの? あの男がつまらないんだよ。  ダンスでも続けてれば、もう少し面白みのある人間になっただろうに。」 「えっ、ダンス?」 「ああ、子供の頃から、モダンバレエをやってたんだってさ。一時は期待される新人として雑誌なんかで騒がれてたよ。美容院の雑誌で見たよ。」  結婚する時、玲奈が太一の紹介で言っていたそうだ。 「バレエなんて金持ちのお坊ちゃんのやることだろ。男がバレエなんて、ねぇ。」  母親は、ひがみの対象としか見ていなかったが、ヒカルには驚きだった。  あの堅物の太一さんがバレエをやっていたなんて! 「ヒカル、バレエわかるの? その後スペインに行ってフラメンコやってたみたい。それで学歴無いんだよ。ただの高卒。大学も行ってない。」  玲奈はそんな事を知っていた。 「あーあ、太一も鬱病でベランダから飛び降りてくれないかな。  でもウチは二階建てだからダメじゃん。」    おふくろは金が残り少なくなって、また、保険金狙いの悪巧みを考えていた。 「家のローンもキツいし、太一が死ねば団体信用保険でローンがチャラになるよ。  生命保険も入るし,死んでくれないかな。」 「前の親父が死んで、うまい思いしたからってまた狙ってんの?」 「殺すわけにいかないから、鬱になって自分で死んでもらおう。」  鬱病に追い込めと言うのだ。この前の一件で味を占めたらしい。 「あたしが追い詰めるから、致命的な一押しを頼むよ。ヒカル、わかってんだろうね。」 「何言ってんだよ。自殺教唆で警察に言うよ。  二度目は無罪放免とはいかねぇぞ。」  恐ろしい母娘だ。 俺は絶対に太一さんを死なせない、と心に誓った。子供の父親を、死ねばいい、なんて言う女。 玲奈につくづく愛想が尽きた。  それからダンスの事が気になる。調べてみよう、と思った。  太一の家に行く。ほんの少しでも顔が見られれば幸せなのだ。  玲奈は夜遊びが激しくなってあまり家に帰らなくなった。 「太一の奴、前の親父みたいにメンタル弱くないねぇ。なかなか鬱病が悪化しない。  早く,死にたくならないかなぁ?」 もう人間性は崩壊している女たちだった。  こんな俺にも、アイドルの仕事が増えてきた。鳴かず飛ばず、だったアイドル仲間から気になる情報が入ってきた。
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