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第17話 平山舞踊研究所

 だが、ある日を境に辞めてしまったそうだ。 ガルシアはつらそうに 「ケガをしたんだ。腱を切ってもう踊れない身体になった。」  ガルシアは詳しい事は教えてくれない。ここまで調べてくれた元ちゃんに感謝だ。  俺は太一さんの事をもっと知りたくて、彼のバレエのルーツを探った。  そして平山舞踊研究所にたどり着いた。その時の先生、平山雛子さんに話を聞けた。 「太一はダンスが生きがいだったはず。 ウチのバレエ教室に3才の時、入って来たの。  お兄さんとお姉さんは空手の有段者で、太一も空手をやるつもりだったのに、親の都合で引っ越したココには空手道場が無かったそうよ。流派があるのね。  ウチのバレエ教室が近かった。引っ越さなかったら空手をやって頭角を現していたわね。」  雛子先生は笑いながら、話してくれた。 真面目にコツコツ続けるタイプで派手な事は苦手。バレエ教室は女の子ばかりで男は二人位しかいなかったから、ずいぶん可愛がられたようだ。  中学になると可愛いバレエ教室から格段と難しいレッスンの、研究所に格上げされる。  厳しいレッスンについて行けなくなり、辞める生徒が多い。 「太一君は辞めなかった。私もぜひとも続けて欲しかった。」  雛子先生は素晴らしい指導者だった。 研究生は中学生以上、成人まで幅広い年令と目標を持った人たちだった。 「子供たちの幼稚な足の引っ張り合いは、ここには無いね。」  太一は感激していた。 「そう、ダンスに対する気持ちが違うのよ。」  誰一人、男女の区別はなかった。実力勝負。 発表会とコンクールに追われる日々で、みんな夢中になってレッスンした。  週に2回ある、クラシックバレエの日に、基本をみっちり叩き込まれた。  男性が増えたのが、何よりやり易くなったようだ。太一は類い稀な美貌で目立っていた。  高校生になる頃には歩いていてもスカウトが寄ってくる。発表会には、芸能事務所からも人が来る。華やかな、舞台が終わると、もう誰とも関わりたくない、と思うようになった。 「君は研究所を背負って立つ人間だ。 頑張り給え。」  舞踊界の第一人者、人間国宝の平山雪之丞に肩をたたかれた。 (こういうのが、一番苦手だ。)  人前で、自由に踊る。それは好きな事。 でも舞台を降りたらシャイな自分がいる。  太一は自分をよくわかっている。  研究所60周年記念公演があった。世界中から舞踊関係者が一堂に会する。  ソロで踊る舞台を任された。
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