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第18話 踊る

 身体を動かす。身体中全部、自分の思い通りに動く。ジャンプが高い。運動能力だけではない。  研究所でいろいろ教えてくれる優しい先輩、大介さん。5才年上。やっぱり、小さい時からバレエをやって来た、努力の人。  この研究所は尊敬できる人ばかりだ。 いつもストイックにバーレッスンをやっている。 ストレッチを欠かさない。大介さんに勝てる気がしない。勝とうなんて思わない。  バレエを踊る人には高い人格が必要だ。 すべて、踊りに出る。心に邪なものを持っていては踊れない。感情が身体を重くする。 (こんな世界があるんだ。) 自分を磨くために努力する人たち。  そこに思いが至ると太一はいつも泣きそうになる。どうしてつらいレッスンを続けるのだ。  先輩たちの厳しい自己管理。その強い意志の中には、ひたすらな思いがある。  何と言う世界だろう。いつまでも、浸っていたい。大介さんは優しい。ライバルなのに限りなく優しい。  60周年記念事業の目玉、最後、クライマックスのソロに太一が選ばれた。 「僕よりずっと上手い人がいる。 僕、踊れません。」 「たわけ! おまえが完璧に踊れるなんぞ、誰も思っておらぬわ。慢心するのは早いぞ。」  雪之丞さんの叱責が飛んだ。  何度も後悔した。不安が押し寄せる。 出来ない、と言えばよかった。 不安な思いが行ったり来たり。 「太一、もっと肩の力を抜いて。 考えすぎないで。先輩に申し訳ない、なんて思わないで。それが一番失礼よ。」 雛子先生に叱られた。  モダンバレエのレッスンでは、男はジャズシューズを履く。女子のトウシューズみたいに爪先を潰す事はない。それでも足はボロボロだ。
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