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第22話 流浪の民
ジプシーというのは差別用語。彼らの存在を簡単には説明出来ない。
日本から来ました、というだけで、
「ああ、おまえには理解出来ないね。」
と、心の扉を閉ざしてしまう。
ガルシアのルーツがロマだから、という理由で太一を住まいに招き入れてくれた。
そして一度太一の踊りを見た者は、みんな太一を受け入れた。
ダンスが世界を繋ぐ。実感として意識に刻まれた。
「太一は恋人いないの?」
ロマの少年に聞かれた。
なぜか、いつもそばを離れない。目力のある黒い瞳で迫られると、焦る。
ロマは性的に自由だ、とガルシアから聞いていた。こんな子供が太一に興味を持つとは考えたくない。
長い迫害の歴史を越えて繋いできた命。尊い人々だと思うのだが、怖くもある。
ヒットラーのユダヤ人に対するホロコーストの影に隠されて、ジプシーの大虐殺があった事は歴史上、あまり取り上げられない。
彼らの暗い影は、苦渋の歴史を物語っているのだろう。
それがフラメンコの情熱に繋がるような気がする。怖がっていては何も得られない。
今ではロマのキャンプは観光客に見せるためのようだ。日本のアイヌや、アメリカインディアンと似たような扱いか、と思われる。
趣きのあるテントの前で、ギターをかき鳴らしてダンスが始まった。
わかりやすいフラメンコの定型を披露してくれた。
「オレ!オレ!タイチも踊れ!」
みんなの手拍子が始まった。ガルシアが手本を見せるように足を踏み鳴らしてサパティアートを始める。みんなの手拍子、パルマが始まった。
ロマの少年が、軽業師のように飛び跳ねてバク転して見せる。
カホンの上に座ってリズムを取る男たち。
タイチも踊れ、と引っ張り出された。
小節の効いたカンテに気持ちが高揚する。
「オレ!オレ!」
ドレスの美人が絡みつくように踊り始めた。
子供の目にはセクシーすぎる、と太一はハラハラしたが、みんなは慣れた様子だ。
そんなヒターノのキャンプだった。
太一は得るものが大きかった。
足の関節は傷まない。
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