22 / 66

第22話 流浪の民

 ジプシーというのは差別用語。彼らの存在を簡単には説明出来ない。  日本から来ました、というだけで、 「ああ、おまえには理解出来ないね。」 と、心の扉を閉ざしてしまう。  ガルシアのルーツがロマだから、という理由で太一を住まいに招き入れてくれた。  そして一度太一の踊りを見た者は、みんな太一を受け入れた。  ダンスが世界を繋ぐ。実感として意識に刻まれた。 「太一は恋人いないの?」 ロマの少年に聞かれた。  なぜか、いつもそばを離れない。目力のある黒い瞳で迫られると、焦る。  ロマは性的に自由だ、とガルシアから聞いていた。こんな子供が太一に興味を持つとは考えたくない。  長い迫害の歴史を越えて繋いできた命。尊い人々だと思うのだが、怖くもある。  ヒットラーのユダヤ人に対するホロコーストの影に隠されて、ジプシーの大虐殺があった事は歴史上、あまり取り上げられない。  彼らの暗い影は、苦渋の歴史を物語っているのだろう。  それがフラメンコの情熱に繋がるような気がする。怖がっていては何も得られない。  今ではロマのキャンプは観光客に見せるためのようだ。日本のアイヌや、アメリカインディアンと似たような扱いか、と思われる。  趣きのあるテントの前で、ギターをかき鳴らしてダンスが始まった。  わかりやすいフラメンコの定型を披露してくれた。 「オレ!オレ!タイチも踊れ!」 みんなの手拍子が始まった。ガルシアが手本を見せるように足を踏み鳴らしてサパティアートを始める。みんなの手拍子、パルマが始まった。  ロマの少年が、軽業師のように飛び跳ねてバク転して見せる。  カホンの上に座ってリズムを取る男たち。 タイチも踊れ、と引っ張り出された。  小節の効いたカンテに気持ちが高揚する。 「オレ!オレ!」 ドレスの美人が絡みつくように踊り始めた。  子供の目にはセクシーすぎる、と太一はハラハラしたが、みんなは慣れた様子だ。  そんなヒターノのキャンプだった。 太一は得るものが大きかった。  足の関節は傷まない。
1
いいね
0
萌えた
0
切ない
0
エロい
0
尊い
リアクションとは?
コメント

ともだちにシェアしよう!