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第24話 遂に腱が

 ステージを投げ出して救急車で運ばれた。アキレス腱断裂ならよくある事だ。 「もうダンスは踊れないのでしょうか?」 恐る恐る主治医に聞くと 「完全に復帰するには普通6ヶ月くらいかかるんだよ。しかし君の場合、酷使して来ただろう。  完全復帰は無理だ。踊るなんてのは、厳しいなぁ。」  長年の足の酷使で、関節も腱もボロボロだと言われた。日常生活は出来ても、踊るなんてもってのほかだ、との診断結果だった。  生きていても仕方がない。そんな事ばかり考えていた。 「タイチ、もう踊らなくていい。店でカンテだけ歌ってくれ。辞めないでくれ。」  ガルシアに泣き付かれた。 太一がフラメンコを踊った黄金時代は、短い間だった。バレエを諦め、今度はフラメンコまで。  小さい頃からストイックに打ち込んできたバレエ。諦めた時、縋り付くようにフラメンコに出会った。フラメンコなら出来た、というわけではなかったが、カンテ、歌があった。 (これも、取り上げるのか?神はいない。)  ガルシアは献身的だった。太一をなんとか支えようとしてくれた。 「ごめん、僕はもうダンスも音楽もない生活がしたいんだ。ここを辞めるよ。」  ガルシアが特別に用意していた社員寮という名のマンションを出た。ずいぶん厚遇されていた。  実家に帰った。大田区のマンション。両親が住んでいる。兄貴も姉貴も自立して家を出ている。  姉はもう3人の子持ちだ。 太一はこのマンションから高校に通った。思い出深い家だった。  生活のために、パソコン入力の仕事を見つけた。実家から通う。  ルックスの良さからコミケなどで携帯のPRに借り出されたりした。  研修があって神奈川の工場からも契約社員が来ていた。正社員登用有り、というのでみんな頑張っている。 「あのぅ、連絡先、交換して欲しいんですけど。」 可愛い娘だった。二十歳だという。8才も年下だった。小動物のようにまとわりついてくる。  孤独な太一にはそれがイヤではなかった。可愛いと思ったのだ。  昔から告られるのは慣れている。今まで気にもかけなかったが、初めて本気で向き合った。

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