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第25話 結婚
特にどうと言うこともなく、結婚した。会社が移転して通えなくなったから会社の近くに引っ越したのがきっかけだった。
独身者用のアパートに通ってくる彼女を抱いた。可愛いと思った。あっという間に子供が出来た。流されるように籍を入れた。
彼女の母親は、あまり形式にこだわらない人らしく、再婚した夫と近所で暮らしていた。
複雑な事情は後で知ることになる。
東京には友人も結構いるが、この町には知り合いは一人もいない。仕事関係だけだ。
彼女は子供の頃からここが地元で友達がたくさんいるようだった。
太一は毎日会社とアパートの往復で、趣味は筋トレ。つまらない人間に見えただろう。
彼女は遊び歩く事が増えた。
子供が生まれて太一の感情は著しく変化したが、
彼女はまだ遊びたい、と言った。
「遊びたいって?具体的にどんな事?」
「もっとアタシの地元の友達と交流して。」
妻の玲奈には地元の友達,と言うのがたくさんいた。みんな一目でヤンキーと思える人たち。
(見た目で判断してはいけない。)
「何がしたいんだ?」
「うん、キャンプとか。今流行ってんだよ。」
初めて行ったキャンプは散々だった。
まだ、小さい赤ん坊を連れてのキャンプは気疲れしか無かった。
ハンドルを握る責任があるから酒も飲めない。
玲奈の友達は概ね親切だった。
「太一さん、イケメンでみんな楽しみにしてたんですよ。」
「え、そんな事ないですよ。」
ブツッとそこで会話が終わる。
気まずい沈黙がある。共通の話題が見つからない。だんだん話題の外に出されて行く。
子供が泣くと
「太一、波留駆(ハルク)にミルクあげて。
おむつも見てよ。」
「あ、ウンチしてるな。」
「ヤダァ、こっちに来ないで。」
全部丸投げだった。
話題は内輪の同級生の噂ばかり。太一にわかるわけがない。
抱っこしていないと泣き叫ぶ、抱き癖が付いた赤ん坊の世話は太一の担当みたいになっている。
「また、泣いてるよ。父親のくせに子守も出来ないの?」
「まあまあ、玲奈も少しは面倒見ろよ。」
馴れ馴れしく玲奈の肩を抱いて同級生が、偉そうにたしなめる。屈辱的なキャンプだった。
「焚き火もうまく出来ないし、キャンプ初めて?」
「ホント、使えないわ。」
(ジプシーのキャンプは楽しかったな。)
そんな事を思った。
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