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第27話 大介さん

「ああ、ここだ太一の家。やっと見つけたよ。」 ドアを開けて出て来た太一に大介さんがハグしだ。懐かしい匂いがする。大介さんの好きなシャネル。ムスクの匂いだ。 「一瞬で大介さんを思い出した。 わあっ、久しぶりです。 汚い所ですけどお入り下さい。」 家の中は汚かった。玲奈は家事が嫌いだ。そしてほとんど帰って来ない。  太一はハルクの世話で手一杯で掃除する暇もない。今もまた泣き始めた。 「大丈夫かい?子供。」 「情緒不安定なんですよ。母親がいないから。」  大介さんは、身だしなみもいい加減な太一を見て心配になった。  あんなにオシャレで綺麗好きだった太一が、髭も剃っていない。それはそれでワイルドでカッコいいのだが。 「スペインはどうだった? 太一にはあそこの空気が合っていただろう?」 「ええ、スペインは肌が合いました。」 「結婚なんておまえに一番似合わない、と思ったんだけどなぁ。」 「僕も、なんで結婚なんかしたのか、この頃後悔してます。」 「おまえの口から後悔なんて言葉が出るとは、な。雛子先生が心配するはずだ。  大介、見て来い!って俺が来たんだよ。」  ピンポーン! 「誰か来たみたいです。」  ドアを開けるとヒカルが立っていた。 「お客さんですか?俺、帰ります。」 奥から泣き声が。 「ヒカル君、ハルクを見てくれないか?」 太一が助かった、と言う顔をしたので、上がり込んでハルクを抱いた。 「大介さん、妻の弟のヒカル君です。 こちらはバレエの先輩の大介さん。」 「はあ、よろしく。」  ダイニングのテーブルでハルクにミルクの用意をした。ミルクを飲ませている間に俺はお茶を用意した。  台所の汚れて散らかったのを手早く片付けた。俺は子供の頃からだらしない母親の代わりに家事を担って来たので、手早い。 「シュークリーム、買って来たんだ。 奥さんもいるかと思って。 良かったら、みんなで食べよう。」 大介さんのお待たせで、紅茶を淹れた。  俺に抱かれてご機嫌なハルクに、和やかなお茶の時間が過ぎた。  大介さんは,太一と俺を交互に見ながら嬉しそうだった。

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