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第28話 『カーサ・デ・シェモア』
大介さんは安心したように帰って行った。
「太一は孤独じゃなさそうだ、って雛子先生に報告しておくよ。
ヒカル君、太一をよろしく。」
俺は大介さんがなにか誤解している気がしたが、敢えて黙っていた。俺の下心が満更、誤解ではないと、言っている。太一はどう思っただろう。
「ハルク、風呂に入れようか?」
「助かるよ。ついでにヒカル君も入ったら。
泊まって行ってもいいし。」
今まで夜遅くなっても泊まった事は無かった。
風呂に入ってハルクはスヤスヤと眠っている。
「太一さん、俺、昔親父に六本木の『カーサ、デ・シェモア』って店に連れて行ってもらった事があるんです。そこで太一さんを見た事が・・」
「えっ?
シェモアにいたのはそんなに長くないけどすごい偶然だな。見てくれたんだ、僕のダンス。」
俺はドキドキしながら太一の目を見つめた。
ハルクを風呂に入れて、ついでに自分も入った。俺はホカホカと気分良く,もらった缶ビール
を飲んでつい、口が軽くなってしまった。
「太一さんは綺麗でした。オレの初恋です。」
「それは光栄だな。フラメンコに興味を持ってくれたなら嬉しいよ。」
「でも、太一さんは急に消えてしまった。
美容院の雑誌で知った。
俺はまだガキだったから、一人で店に行くことも出来なくて、父親とも疎遠になっていたし。
母親が別れた父と会うのにイヤな顔をしたので。」
早く大人になりたい。あの頃はいつもそう思っていた。母親の呪縛から自由になりたい、と。
いつも太一を思っていた。初恋だから。
(それで、付き合うのが男ばかりだったんだ。)
まさか自分の姉が太一と結婚するなんて。玲奈と太一が結婚した事でわかったのは、太一がノンケだと言う事だった。
(太一のせいで俺はゲイになったようなものなのに。)
ビールのせいか、さっきから思いが行ったり来たり。
座ってビールを飲んでいる太一の手が,素敵だと見惚れたり、タバコを咥える口元から目が離せない。長い指がたまらなくセクシーだ。髪をかき上げる仕草。ずっと見てしまう。
「どうした?
そんなに見られたら穴が開くよ。」
笑いながら話すその口元のシワがセクシーだ。
玲奈はこの男をなぜ、裏切ったりできるのか?
罰当たりだ。
「太一さん!」
「タイチ、でいいよ。さんはいらない。
僕もヒカルって呼ばせてもらうよ。」
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