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第35話 借金
「ピンポーン!ピンポンピンポンピンポン!」
急かすように何度も鳴らされる玄関チャイム。
インターフォンに映った男の顔に見覚えは無い。セールスなら面倒だ、と思いながら応答する。
「はい、何の御用ですか?
赤ん坊が寝てるので何度も鳴らさないでくれ。」
「こちら、宮原玲奈さんのお宅でしょ。
緊急の用事があるんですよ。」
「玲奈はいませんよ。」
太一がドアを開けながら言った。相手はドアの隙間に爪先を入れてドアを蹴り開ける。
「どうも、ご主人ですか?
これを見て頂きたい。」
手に持った封筒をよこす。
「督促状?」
まがまがしく赤い文字で書かれた封筒だ。
「妻が何か?」
ドカッとドアを蹴って
「スカした事、言ってんじゃねえよ。
おまえの嫁の借金だよ。携帯じゃシカトされてっから、わざわざ来てやったんだよ。
兄貴にご足労かけてんだよ。」
後ろにいた血気盛んなヤンキーが,兄貴の代わりに怒鳴っている。
「まあ、ご主人が肩代わりしてくれるなら、こちらは穏便に済ませますよ。
シカトされてんのがちょっと引っかかりましてね。」
「おう!舐めてんじゃねえぞ。」
イキッたヤンキーは可愛いな、と太一は思った。
「一体いくらなんです?」
「まあ,ウチだけでざっと1500ってとこかな。
奥さんあちこちから摘んでるよ。早く止めさせねえとデカくなるよ。
おっと余計な事だったか。」
落ち着いて話すこの男は、イキッた奴より凄みがある。
一緒について来た舎弟分はまだ、ハンパなんだろう。首から刺青をチラつかせて凄んでいるつもりらしい。
「書類、置いていってください。後ほど精査してご連絡しますよ。今日はお引き取りください。」
「ああ、それじゃあ、お願いします。」
「期限切ってくれ。ガキの使いじゃねえんだよ。」
「オサム、止めなさい。ご主人はきちんとしてくれるよ。それじゃあ、また,来ます。」
パーン、とオサムは引っ叩かれてすっ飛んだ。太一に見せしめのパンチが真っ直ぐ決まった。
「奥さんによろしく。斉藤といいます。
また、寄らせてもらいます。」
「嫁、捕まえておけよ。とんでもない女だ。
亭主殺して保険金で払う、って言いやがった。」
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