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第37話 支度金
ガルシアにこれまでの事を話した。
「もう、ダンスはキッパリ辞めたの?
カンテ(歌)だけでも続けて欲しかったよ。」
太一の手を握りながら長い話をする。
「太一は結婚向いてないよ。」
「でも、子供がいるんだ。
何があっても子供を守る、と固い決意を伝えた。
「子供を見ていてくれる人はいるのね。
働くならその間、子供の面倒を見る人は必要だわ。」
太一はヒカルを頼りにしていた。
「取り敢えず、仕事紹介するから。
これから行こう。」
ガルシアの勧める仕事はホスト、だった。
「僕はもうすぐ30才になるんだ。ホストは無理だろう?」
水商売の常、支度金という名目で金を出させる、という。引き抜きによくあるバンス、前借金。売り上げを期待できるホストなら、支度金と言って貸し借りではない現金給付だ。
ガルシアは太一のその顔、とその知性、に価値を見出していた。
連れてこられたのは、六本木の中心地とも言えるビルの13階、『クラブ ディアボラ』だった。
面接だと言われ店の控え室に通された。控え室とは思えない広くて綺麗な部屋だった。家具、調度も厳選されてセンスがいい。
長身の男が入って来た。イケメンだがちょっと崩れた感じが彼をとっつきやすく見せている。
「ああ、やっぱりいい男。ガルシアと訳アリ?」
「違うわよ。円城寺は知らないの?
ダンサーの宮原太一。一時マスコミが追ってたでしょ。」
「姿を消したって言われてたバレエの?」
名刺を寄越した。
ークラブ ディアボラ
社長 円城寺隼人ー とあった。
ホストクラブとは書いてない。
「なんでウチに来たの?
ガルシアが推薦するなら、って全面的に信用したんだけど。」
アタッシュケースをテーブルの上に乗せてパチンッと開けた。
中には札束がぎっしり。
「三千万円あるよ。これ支度金としてあなたにあげる。」
「えっ?初対面でいいんですか?」
太一は信じられないものを見るような気がした。現金で目の前に積まれた札束。
「僕はもう30才に近い。ホストとしては遅すぎるでしょう。信用してくださっても何ができるのか、僕に務まりそうですか?」
「もちろんあなたの外見だけで決めたんじゃないの。その知性と教養。ものごし。ダンスで身につけた立ち居振る舞いの上品さ。
一目で気に入った。何年水商売やってると思う?人を見るのが仕事なのよ。」
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