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第40話 シンパパ

 太一が申し訳なさそうに 「ヒカル、早く帰ってくれないか? シッターさん,時間契約なんだ。これ以上伸ばせない。もう寝てると思うけど、ハルクを頼みたい。」 小さな声で言った。  いつも綱渡りのようにベビーシッターを頼んでいる。ヒカルも自分の仕事や付き合いがあるからあまり縛り付けるわけにいかない。 「わかった、急いで帰るよ。 元ちゃん帰ろう。」  元太はヒカルがどこに住んでいるのか知らない。まさか、太一と一緒に暮らしているとは思っていない。  そこまで本気だとは思っていなかった。 「ごめんね。ゆっくり相手できなくて。 指名が入ってるんだよ。」 ミコトのお客さんがこっちを見ている。  キースが不思議そうに 「昔、コンクールでぶつかったことがあるよ。 宮原太一、なんでホストやってんだ?」 「凍夜だから言うけど、太一さんは離婚して一人で子供育ててるんだよ。」  凍夜は泣きそうなミコトを抱きしめて頬にキスしている。 「お客さん、ホストにお触りは駄目ですよ。」 キースが笑って見ている。  凍夜とキースは同じくダンサーを目指していた。子供の頃から一緒にモダンバレエをやっていた。 「ミコトは、俺の子供が生めないって、子供の話が出ると泣くんだよ。よしよし。  ミコトが俺の大切な子供みたいなものだから。 他にいらないんだよ。」 「はああ、勝手にして。そうか、太一さんシンパパなんだ。大変だねぇ。」 「シンパパって?」 「シングルパパ。ひとり親だよ。」  凍夜は考え込んでしまった。 「才能がむざむざと潰されていく。 何か、できないか?」  社長の円城寺を呼んだ。 「ご無沙汰です。」 「ああ、凍夜。スーパースターのお出ましかい? 今,何やってるんだい? 遊んでるんなら戻ってこいよ。」  凍夜は昔ナンバーに入るホストだった。今でも円城寺には誘われる。 「ミコトも辞めさせたいのに何言ってるんですか?」 「ミコトは売れっ子なんだよ。脅かすなよ。」

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