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第41話 託児室

「太一さん、菫(すみれ)ちゃんが話があるって。」  円城寺に呼び出された。 まだ、営業時間じゃないので取り急ぎ、スーツも着ないで店に来た。ハルクも連れて来てほしいと言われて一緒に来た。 「初めまして、ハルクくん。 おばちゃんは菫ちゃんだよ。」  人見知りのハルクが両手を出して抱っこされている。ニコニコしているハルクにホッとする。  そして何だか嬉しそうなオーナーの顔に太一は戸惑った。 「控え室の奥に部屋を作ったのよ。 ハルクくんの部屋。完全防音で清潔な託児室を作らせたの。」  簡単なバスルームとキッチンを備えたワンルーム。ベッドもある。 「子供連れで出勤出来るように改装したのよ。」  オーナーの上条菫は上条不動産の社長でもあり、このビル全体のオーナーでもある。  タワーマンションブームの火付け役と言われる敏腕の女性経営者だ。円城寺は訳あってこのオーナーに拾われ、雇われ社長になった。  すみれちゃんには頭が上がらない。 「かずさんが来るからハルクくんと遊んでみてね。」  少し遅れて、かずさんと言われる年配の女性が来た。ハルクは初め警戒して太一の腕を離さなかったが、かずさんの手にあるあやとりに興味を持った。いろんな形に変化する紐に目を奪われている。 「一緒に遊ぼう。」  手を伸ばすと太一から離れてかずさんの膝に乗った。 「アックもやる。」  小さな手に輪になったあやとりの紐をかけてもらって何かやり方を教わっている。 「すごい、ハルクがヒカル以外の人の膝に乗るなんて。」 「かずさんは私の家で家事をやってくれてたんだけど、孫が大きくなったから、こちらで子守りをしてくれるって。信頼できる人よ。」  なんとオーナーの菫ちゃんはディアボラに託児室を作ってくれたのだ。 「面白い、と思って、ね。 よく水商売の店では託児所付きってのがあるでしょ。大抵、母親が預けるんだけど、これからはホストも子育てをする時代よ。  他にも子持ちのホストが出てくるかもしれないし。」 「すごいアイデアです。 僕もこれで心おきなく仕事に専念出来る。」 「夜職で、子供には良くない時間帯だから、出来るだけ規則正しい生活にしてあげたいと思って、防音には気を使ったのよ。」 「これで、虐待やネグレクトにならないように。 少子化に歯止めができれば、ね。  はじめの一歩。ハルクくんが幸せならいいわ。

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