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第42話 第一号
ホストクラブの託児所第一号が出来上がった。育児の良し悪しに決まりはない。
環境は良くないだろう。酒を提供するのだ。そんな父親を見て深夜まで託児されるのだ。
太一は一抹の心配があった。ヒカルがとりあえず保父さんをやると言い出した。
かずさんのサポートをしたいという。
「仕事はいいのか?」
「うん、ゆっくりやらせてもらうよ。
売れないアイドルだからね。」
円城寺はヒカルが気に入ってホストにさせたいが,ヒカルはあくまでも子守りをやりたい、という。ハルクから離れたくないらしい。
「ありがたいね。安心して働ける。」
これは陰で凍夜が菫ちゃんに直談判したらしい。
そして太客を回してくれる。
「凍夜っていったい何者?」
ヒカルの疑問に
「あまり表に出ないロックスターだよ。
あのメガフェス、知ってるだろ。」
「あ、凍夜ってあのバンド『凍てついた夜』のボーカルだ!」
ヒカルは信じられない思いだった。
太一のダンスも熱烈なファンがいる事に驚いたが、凍夜とキースにも驚かされた。
ディアボラは、底知れぬ大物の集まる所だった。
心配する事もなく、ハルクは馴染んでかずさんにも懐いていた。
「ホントのおばあちゃんみたいだ。
俺の母親とは全然違う。」
かずさんは孫に囲まれて円満な家庭を営んでいた、幸せなご婦人に見える。
「かずさんは筆舌に尽くしがたい波乱の人生を送って来たのよ。
それでもあの暖かさを失わない強靭な精神力に頭が下がるわ。
いつか、話してくれるかも、ね。」
菫ちゃんはそう言っていた。
(人には色々な事があるんだな。
そうは見えない、とか思う人に限って大変な苦労をしていたり。)
ヒカルはこの頃出会った人たちに学んだことは大きいと感じた。世間一般で成功者だと言われる一部の人間以外にもすごい人は、いる。
わかりやすい序列には、何の意味もない。
ホストをやっている男たちにも、その数だけ人生があるのだ。
「人は外見だけじゃわからないものだ。」
少し大人になった気がするヒカルだった。
青天の霹靂。家庭裁判所から調停の呼び出し状が届いた。太一と玲奈の離婚調停だ。申立人は玲奈になっている。離婚届の不受理申立てだ。
玲奈は親権を争うつもりだ。
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