52 / 66
第52話 引退
それがこの前の事だった。
「俺、引退するよ。もう芸能界は嫌だ。
一部の気の狂った人が牛耳ってる。」
そんな中で大御所の顔色を伺って言いなりになるのは嫌だ、と元ちゃんは泣きながら言った。
愛ちゃんもエレノアも一緒に泣いてしまった。今まで我慢して来たんだろう。
「アタシたちも、もう嫌だな。
いい年した親父俳優からセクハラされるの我慢してたんだ。」
みんな、辞める話で盛り上がってしまった。
「元ちゃんの写真撮っておこう。
後で損害賠償とか、訴えたり出来るかも。」
シャツを脱がせて背中の酷さに言葉を失った。
「ひどい事するね。」
ぽろぽろ涙をこぼしながら、エレノアが言う。
「うん、これはスキャンダルだ。
アイツら、握り潰すかな?」
「それより、戦う気力ある?」
ヒカルはいろいろ難癖をつけてくる玲奈の事を思い出した。
「気持ちを強く持たないと。」
太一に相談することにした。菫ちゃんにも、だ。
「元ちゃん、ここ、高そうだけど、事務所辞めてやっていけるの?」
元ちゃんのマンションの家賃が心配になった。
「うん、親が出してくれてる。
事務所の給料じゃ足りないのはヒカルも知ってるだろ。」
「あんなにテレビに出てるのに、相変わらず安月給だったんだ。俺は少ないの当たり前だけど、元ちゃんは稼いでたでしょ。」
意外だった。それに親に頼ってたなんて。
「お坊ちゃんなのかよ。」
「でも、働かなくちゃ。親は厳しいんだ。」
その夜、片桐愛と森エレノアは、元ちゃんと共に芸能事務所を辞める決心をした。
売り出し中で、冠番組を持つような売れっ子ではないので、簡単に辞められると思っていた。
「仕事探さなくちゃ。」
ヒカルは閃いた。
「君たち、水商売は嫌かな?」
「俺、大丈夫だよ。ホストとか?」
「うん、俺の恋人、ホストやってんの。」
「え?あのタブラオのダンサーは?」
「そう、その彼がホストなんだ。
系列店でキャバクラもやってる。
愛ちゃんたち、キャバ嬢はやりたくないよね。」
「ううん、やってみたい。」
(みんな何だか甘く見てるような気がするけど、大丈夫かなぁ。)
ともだちにシェアしよう!

