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第52話 引退

 それがこの前の事だった。 「俺、引退するよ。もう芸能界は嫌だ。 一部の気の狂った人が牛耳ってる。」 そんな中で大御所の顔色を伺って言いなりになるのは嫌だ、と元ちゃんは泣きながら言った。  愛ちゃんもエレノアも一緒に泣いてしまった。今まで我慢して来たんだろう。 「アタシたちも、もう嫌だな。 いい年した親父俳優からセクハラされるの我慢してたんだ。」  みんな、辞める話で盛り上がってしまった。 「元ちゃんの写真撮っておこう。 後で損害賠償とか、訴えたり出来るかも。」  シャツを脱がせて背中の酷さに言葉を失った。 「ひどい事するね。」 ぽろぽろ涙をこぼしながら、エレノアが言う。 「うん、これはスキャンダルだ。 アイツら、握り潰すかな?」 「それより、戦う気力ある?」 ヒカルはいろいろ難癖をつけてくる玲奈の事を思い出した。 「気持ちを強く持たないと。」 太一に相談することにした。菫ちゃんにも、だ。 「元ちゃん、ここ、高そうだけど、事務所辞めてやっていけるの?」 元ちゃんのマンションの家賃が心配になった。 「うん、親が出してくれてる。 事務所の給料じゃ足りないのはヒカルも知ってるだろ。」 「あんなにテレビに出てるのに、相変わらず安月給だったんだ。俺は少ないの当たり前だけど、元ちゃんは稼いでたでしょ。」 意外だった。それに親に頼ってたなんて。 「お坊ちゃんなのかよ。」 「でも、働かなくちゃ。親は厳しいんだ。」  その夜、片桐愛と森エレノアは、元ちゃんと共に芸能事務所を辞める決心をした。  売り出し中で、冠番組を持つような売れっ子ではないので、簡単に辞められると思っていた。 「仕事探さなくちゃ。」 ヒカルは閃いた。 「君たち、水商売は嫌かな?」 「俺、大丈夫だよ。ホストとか?」 「うん、俺の恋人、ホストやってんの。」 「え?あのタブラオのダンサーは?」 「そう、その彼がホストなんだ。 系列店でキャバクラもやってる。 愛ちゃんたち、キャバ嬢はやりたくないよね。」 「ううん、やってみたい。」 (みんな何だか甘く見てるような気がするけど、大丈夫かなぁ。)

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