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第55話 場違いな輩
ディアボラの営業時間中、あの斉藤が玲奈を連れて店に入って来た。
「いらっしゃいませ。どなたかのご紹介ですか?」
エレベーターを降りたら慇懃無礼なドアボーイに聞かれた。
「新宿T会の斉藤だ。
話のわかる奴はいねぇのか?」
ディアボラのドアボーイは当番制だ。手の空いているホストが交代でドアの前に立つ。ドアと言っても専用エレベーターの扉だ。
いつもその時のテーマが決まっている、凝った設えの有名な店だから、迷い込むお客さんもいる。テーマパークと間違えるのだ。テーマは大体、一月ごとに変わる。
今夜はボールパーティ。ヨーロッパの舞踏会を模している。内装も重厚なヨーロッパの城のようだ。ホストは執事の位置付けだ。
社交ダンスのパーティーでフォーマルな、格式の高いドレスコードが求められる。
事前に常連には招待状が送られている。
ドレスコードはモースト・フォーマル。正礼装か、次に格式のあるセミフォーマルが求められる。もちろん女性はイブニングドレスだ。
男性のタキシードもギリギリ許される。姫たちは日常を離れてオシャレができるので大喜びでアフタヌーンドレスやカクテルドレスを新調する。
「本日はボールパーティなのでご了承ください。」
斉藤はヤクザだと言えば相手が恐れると、いつものように名前を出した。
タキシードとまではいかないが、まあまあのスーツを着ている。残念ながらダークスーツとは言えない色の明るいスーツはアルマーニ。
いかにもわかりやすい、ブランドに弱いヤクザの趣味だ。馬鹿の一つ覚えか、全身アルマーニ。
ちょっとカジュアルだ。ボールパーティには不釣り合いだ。
これ見よがしの金のロレックス。ピカピカのプラダの靴。下品だが,金はかかっている衣装では、ある。
玲奈も遺産が入った時に買い漁った、ハイブランド、フェンディのドレスにジミーチュウのピンヒール、ロッタを転びそうになりながら履いている。姿勢が悪いので背の低さをカバー出来ていない。竹馬に乗っているようだ。
場違いなエルメスのバーキンを抱えている。値段は高いが、大荷物の整理が出来ない女優ジェーン・バーキンのためにエルメスが作った大型バッグだ。フォーマルな場には全く合わない。
ボールパーティには異質の二人だった。
彼らは、太一が三千万用意できたホストクラブを嗅ぎつけて,ディアボラにやって来た。
あまりにもゴージャスな店に、完全に度肝を抜かれている。
席に案内された。一見(いちげん)だが、ヤクザだと凄んでいる下衆な客を無碍には出来ない。
円城寺に報告が入ると入店のOKが出た。
「ご指名はございますか?」
「太一よ、宮原太一。呼んでちょうだい。」
席に案内したベテランの零士が、ムッとした顔で慇懃に応対した。
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