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第56話 新宿桜会

「いらっしゃいませ、ご指名ありがとうございます。太一です。」 名刺を差し出した太一に、玲奈が 「久しぶり。カッコいいわね。 ホストなんかやってんの?」 落ちぶれたー、と笑いに来たつもりが、全く格が違う。 「ああ、稼がないと、ね。 ハルクもいるし。」 「フン、気取っちゃって、なにさ。」 「お飲み物は何にいたしましょうか?」 「生ビール、取り敢えずナマ!」 恥ずかしい女だ。他に知らないのか? 「カクテルもございますよ。」 「じゃあ、レゲパン。レゲエパンチ、ね。」 それを奥に通しに行ったヘルプのジンが困った顔で戻って来た。 「知らないの?ピーチウーロンの事だよ。」 勝ち誇ったようにゲラゲラ笑う玲奈が哀れになった。 「そのようなものはカクテルじゃない。 少なくてもウチには置いてない。」 「もう、何でもいいからおつまみ持って来て! あたりめと枝豆。早くして。 はい喜んで!とか言えよ。」 居酒屋のメニューだ。ディアボラには用意していない。 「メニュー持って来て。」 赤い表紙の重厚なメニューを渡された。 「え、シャンパンが15万⁈ モエでも7万だって。ぼったくりじゃん!」 太一が呆れて 「お客さま、騒ぐのはダメですよ。他のお客様に迷惑です。落ち着いて話してください。」 「何言ってんのよ、気取っちゃって。」  トラブって騒ぐ客に、円城寺が出て来て太一とバトンタッチした。  名刺を出して 「失礼しました。社長の円城寺でございます。 ウチの従業員が何か?」 「社長さんなんだ。 あのホスト、感じ悪いわ、辞めさせて。」 「ああ、太一さんはもうすぐナンバーワンになる逸材ですよ。  安っぽいお客が何人来ようと、彼は辞めさせません。物凄いファンがたくさん付いているのですよ。  所でアンタたち、何者?」 急に話し方も雑になった円城寺を見て、ますますいら立つ玲奈に 「アンタら、いいかげんにしろよ。」  向こうのVIP席から藤尾さんと一緒に、強面の客が出て来た。 「新宿T会の人だって。 平田さんの所も、行儀の悪いの、飼ってるねぇ。」 「あ、桜会の佐倉大五郎組長。 若頭の竜治さん!」 斉藤は真っ青になっている。 

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