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第57話 芸能事務所

 ヒカルと元太のいた芸能事務所は、業界でも弱小だった。こういう事務所の常で、一人タレントが売れれば事務所はやっていける。  売れっ子を何人も抱えていれば、もう安泰なのだ。ヒカルには専属マネージャーはいなかった。  数人の駆け出しタレントを,一人が面倒見る。 腕利きのマネージャーが付けば売り込みもコネクションも段違いだが、何しろ売れていない、というのは何もかも出遅れたのと同じ。  大手のプロダクションならゴリ押しも出来るが、弱小は始めからボタンの掛け違いのままだ。  才能ある若いタレントが少し注目されると、そいつにたかるハイエナが現れる。  足の引っ張り合いが始まる。中には大化けするタレントもいる。なんかの拍子にバズる。ネットで,今までにないバズり方で大炎上することもある。インフルエンサーと言っても、計算で出来るものではないらしい。先の読めない時代だ。  藤尾の所に報告が届いた。秘書兼ボディガードのメイトが確認する。 「藤尾さん、処理、って知ってますか? 前に行方不明者がいたそうです。 芸能事務所の社長だったそうですが。」 「はて?聞いたことがある。古い記憶だ。 奥のご老人に関わる、よくない記憶があるな。」  昔から怪しいプロダクションではあった。 「処理」が絡む案件。 「なんでまた、漫然と存在してるんだ? ご老人の逆鱗に触れて処理されたはずじゃなかったか?」 藤尾は何かがバグっている,と感じた。  数々の危機から無事に今まで生きてこられたのは、この自分の「動物の勘」のおかげだ。 「まだ、事務所に籍が残ってるみたいだな。 なんか難癖つけてくるよ。」  愛ちゃんもエレノアももう二度と事務所に顔を出したくない。真っ黒になって事務所の大掃除をしたのだ。  あの藤尾さんが手を回して辞められた、と安心していた。 「もう、芸能活動する気はないんだろ。 そのまま、バックれていいんじゃないか?」 「給料とか、今までの分もらえないのかな?」 「振り込みじゃなかったの?」 「ううん、手渡しでもらってた。 昭和かよ、ってみんな言ってた。」

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