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第59話 沼田レイモン

 席に案内された。 「ここは何する店?」 「ショーとお食事が楽しめる店ですよ。 これからショーが始まります。 お食事はこちらにお任せください。」  大きな丸いテーブル席に案内された。広い店だ。前の方にステージがあり、ビッグバンドが生演奏をしている。気持ちのいいジャズが聞こえてくる。 「飲み物を聞かれなかったわね。 勝手に持ってくるのかしら。」  ワゴンを押してさっきの黒服がやって来た。  氷の詰まったクーラーの中に数本のボトルが突き刺さっている。シャンパンのようだ。  スマートに開栓されてフルートグラスにシャンパンが注がれた。マサミはボトルを手に取って銘柄を確かめる。 「フン,ドンペリ、ね。コケオドシかな。」 みんなグラスを持ち上げて勝手に飲み始めた。乾杯する理由がない。  料理が運ばれて来た。 「本日はフレンチのフルコースでございます。 ごゆっくりどうぞ。」  周りの席も少しずつ,埋まって来た。 落ち着かない気持ちでフォークをとる。ゆっくりと、絶妙のタイミングで運ばれてくる料理を食べながら、あまり会話が弾まない。  いつもはバカ騒ぎする顔ぶれが、なぜか神妙だ。コースもおわりに近づいてデザートが運ばれたタイミングでショーが始まった。  ドラァグクイーンのショーだった。 「すごい!有名な小鉄じやない? 小鉄のショーが見られるなんて、 アタシたちツイてるよ。」 マサミがはしゃいでいる。  スマートな男が近づいて来た。 「失礼、大山ヒロシ君じゃない?」 「誰?大山の知り合い?」 「あっ、これは。」 大山が最敬礼で立ち上がった。 「沼田レイモン先生! こんな所でお会いするとは。」 「大山ちゃん、相変わらず芸能界ゴロみたいな事、やってるの?」 「とんでもない。今日はマサミさんのお供です。 いつも懇意にしている顔ぶれです。」  あのサディストで有名な、作家の沼田レイモンだった。大山は自称サディストとしてレイモンの弟子を名乗っているが許可は得ていない。 「上に私の部屋があるのよ。 後でいらっしゃい。おもしろい体験が出来るわよ。」  酷薄な表情で笑うレイモンに、ゾッとした。

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