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第60話 玲奈

 一方ディアボラではーーー 斉藤さんは慌てて立ち上がった。 「これは、新宿桜会の組長、佐倉大五郎さんですよね。ウチの親父、平田をご存知ですか。  こんな所でお会いするなんて。」 「は?おまえみたいな知り合いはいないと思うがなぁ。」 「ウチの親父から組長の事はいつも伺っておりますんで。」 平身低頭の斉藤に 「平田は元気か? おまえ組の名前出して何がしたいんだ? ここはT会のシマウチじゃねぇだろ。」 「ひっ!申し訳ありません。女が不調法で。」 「場所をわきまえろよ。」 ここはホストクラブだ。 「ちょっと、何ペコペコしてんのよ。 あんたヤクザでしょ。あんな人相の悪いおっさん、シメてやんなよ。」 「バシッ!」 玲奈は殴り飛ばされた。 「何すんだよ!いつもヤクザ、ヤクザって威張ってんだろ。ダセェな。」  唇を切ったらしく血をたらしながら、喚く玲奈を太一が手を貸して起き上がらせる。 「お客さま、店内で暴力沙汰はおやめください。」  斉藤は佐倉組長の手前、見せしめに玲奈を殴った。その斉藤の胸ぐらを、若頭の竜治が掴んでいる。物凄い力で身動きが取れない。 「おうっ、女には威勢がいいなぁ。 みっともない事はやめろ!」 「平田に報告せんといかんなぁ。」  佐倉組長が笑っている。 太一に支えられて玲奈は 「離してよ。いつまで触ってんの。」 優しく唇の血を拭っている太一の手を振り払った。 (こいつ、こんなにいい男だったっけ?) 太一のかっこよさに思わず見惚れた。  いつの間にかホスト達,店のスタッフが遠巻きにして見ている。みんな太一を心配しているようだ。 (こんなカッコいい仲間に囲まれて、太一ってイケてる。アタシの亭主だったのに。) 逃がした魚は大きい。太一が地味にサラリーマンをやっていた時、頭からバカにしていた。  地元のヤンキー達が 「一声かければ100人は来るぜ。 俺たちに喧嘩売ってんじゃねえぞ!」 とか言うのをカッコいいと思っていた。  いい年してもみんなでつるんでいるのが、カッコいいと。そして自分もその仲間だと信じていた。 「みんな友達じゃん。絆で結ばれてんだよね。 アタシのために、100人呼べるんだよね。 友達じゃん!」 そんな事を信じていた。

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